コロナ感染第2波のイスラエル


首相辞任求め市民らデモ
権限強化の新法案に反発
専門家「解決策は完全封鎖」

  新型コロナウイルス感染の第2波に見舞われているイスラエルでは、政府の対応に不満を募らせる市民らがネタニヤフ首相の辞任を要求し、連日の全国的な抗議デモを行っている。内閣に広範な権限を与えるコロナ法案が23日に可決された後、デモ隊はさらに勢いを増し、民主主義の原則から大きく外れるとして反発している。(エルサレム・森田貴裕)

24日、エルサレムの市場でマスクをして買い物をする市民(UPI)

24日、エルサレムの市場でマスクをして買い物をする市民(UPI)

 エルサレムでは25日、首相公邸前のパリ広場に市民数千人が集まり抗議の声を上げた。警察は、デモ隊鎮圧のための放水車2台を出動させた。海岸沿いの都市カイザリアにあるネタニヤフ氏の私邸前にも抗議者数百人が集まった。

 イスラエルのメディアによると、ネタニヤフ氏は今月に入り、週末のみの部分的な経済活動の制限を課そうとしたものの、クネセト(イスラエル国会)のコロナウイルス委員会が、閣議決定した公共エリアに対する一連の制限に反発し、決定を覆したという。

 週末に、ビーチ、プール、アトラクション、レストラン、スーパーマーケット、薬局は営業し、ショッピングモール、市場、ヘアサロン、スポーツジムは閉鎖するという中途半端なものとなった。

 保健省当局者は、週末のみの封鎖という政府の方針は、中途半端で、論理的でなく、市民の間に不信感を募らせると指摘した。保健省は、完全な封鎖か、完全な開放かどちらかにすべきだと政府に進言したという。

 ネタニヤフ氏は、 内閣の決定に反対するコロナウイルス委員会の権限を剥奪し、議会の監視を減らしながら感染拡大を抑制するための広範囲な制限を素早く決定、実施する権限を内閣に与える「大コロナウイルス法案」を提出した。法案はクネセトで23日、48対35の賛成多数で可決され、8月10日に施行されるという。

 パンデミックの定量分析の専門家で米国のシンクタンク、ニューイングランド・コンプレックス・システム研究所(NECSI)の責任者であるヤニール・バルヤム博士は、イスラエル紙イディオト・アハロノト(電子版)の24日付のインタビュー記事で、新型コロナの急速な感染拡大に対する解決策について、「部分的な封鎖のみ課す場合や完全封鎖を遅らせたりすると、緩やかに感染が拡大するだけ」と指摘、「ウイルスを完全に消してしまうのは、厳格な封鎖だけ」と主張した。

 バルヤム博士によれば、ニュージーランドなど世界50カ国で新たな感染者がほぼゼロに達している例を挙げ、政府の封鎖措置により、ウイルスがイスラエル全土に急速に拡散するのを確実に止めることができるという。

 実際にイスラエルは感染初期の段階から、感染の疑いのある者を隔離し、中国や韓国など感染拡大国からの外国人入国を拒否した。3~4月の期間は厳格な封鎖を実施したことで、5月には1日当たりの新たな感染者数が10人以下となる日もあり、感染の抑え込みに成功したとみられていた。

 学校や経済活動の再開には時期尚早だとの声も上がっていたが、政府は規制を緩和していった。以来、再び感染が広がり始めた。感染者は急増し、今月21日には初めて1日当たりの感染者数が2000人を超え、過去最多を更新し続けている。26日の時点で累計感染者数は6万1000人を超え、死者数は468人となった。

 政府は26日、経済支援として、高額所得者を除くイスラエル人成人(18歳以上)に対し1回限りの給付をする法案を承認した。独身から子供3人以上を持つ夫婦まで、750シェケル(約2万3000円)~3000シェケル(約9万円)を給付するという。

 イスラエルの経済は、3~4月の国家封鎖でほぼ完全に停滞し、失業率は26%に上昇、100万人以上が失業した。その後の数カ月で制限はほぼ解除されたが、失業率はいまだ20%を超え、約80万人が職を求めている。

 政府は、経済への影響が深刻なことから都市封鎖は避けてウイルス撃退のために最善を尽くすという。コロナとの戦いは長期戦、持久戦を強いられることになるだろう。