唯一の希望は“目覚めた有権者”

　韓国と米国は今年、選挙の年を迎える。韓国では４月に総選挙が、米国では１１月に大統領選挙と上下両院議員、州知事選挙が同時に実施される。

２０１７年２月４日、ソウル市庁前広場で行われた朴槿恵大統領弾劾反対の保守系デモで、「ロウソクは人民、太極旗は国民」と記された韓国国旗を羽織る男性（上田勇実撮影）

　韓米両国の選挙戦を貫く最大の特長は“二つの韓国”と“二つの米国”だ。韓国と米国を二つに分断している最高責任者は文在寅大統領とトランプ米大統領だ。両国は親文と反文、親トランプと反トランプに２分化され、両国で二つの陣営間の対決は党派戦いを越えて、内戦の様相すら帯びている。政治と選挙の両極化によって穏健派や中道派は立つ場所がない。

　特異な点は文大統領とトランプ大統領がともに４０％台の岩盤支持率を維持しているという事実だ。文大統領が経済と対北朝鮮政策で失敗していても、支持率は大きくは落ちない。トランプ大統領も同じで、ワシントンポストとＡＢＣの最近調査では、米議会の弾劾審判が始まっても、トランプに対する支持率は４４％で、以前よりも上がっている。

　こうなると選挙の公式も異なってくる。選挙は家ウサギ（地盤）を守って野ウサギ（浮動票）を捕まえる戦いと見なされた。今はそのよう公式が通じない。野ウサギは無視して徹底的に家ウサギを守ってこそ勝利を担保できる時代となった。文大統領やトランプ大統領が国民全体よりは自身の支持層結集を狙う政策を押し通す理由もこのためだ。

　だから親文が結束力を固めるほど反文の憎しみと反感は大きくなり、親トランプが集結力を発揮するほど反トランプ派の闘争熱気は高まることになる。

　問題は、選挙が終われば二つの韓国、二つの米国現象はさらに加速するという点だ。このままいけば政治の両極化で国が滅びるまで、誰もブレーキをかけられない。

　言論人や知識人など専門家グループにも希望を託しにくい。韓国と米国で保守と進歩メディアの報道スタイルは、もはや自らの動力によって統制できない状態に陥っている。トランプ大統領に対する弾劾審判を報じる米主流メディアを見れば、二つの米国に二つの真実が共存するという事実を知ることができる。韓米両国で最後の砦（とりで）と思われてきた司法部もまた政治色に染まりつつある。誰が正しくて、誰が誤っているのか、中立的に評価し、判断できるシステムが消え去りつつある。

　二つの韓国、二つの米国で唯一の希望は“目覚めた有権者”しかいない。有権者が１票を入れる時、選択基準は明確だ。韓国総選挙では誰が分裂主義者で誰が統合主義者なのか確かめた後、最善でなければ次善の候補を選ばなければならない。既成政治家の中では与野党あわせて最も穏健派に属する候補を選択し、新人では党派性が最も薄い候補を推さなければならない。

　政治両極化の中で１度の選挙で政治主導勢力を交代することは難しいのが現実だが、目覚めた有権者が与野党に穏健グループの芽を植えておくことは諦めてはならない。

（鞠箕然ワシントン特派員、２月３日付）

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

「中庸」のない不寛容な社会

　もともと朱子学が強かった半島の歴史は「白か黒か」の二者択一で「党争」が繰り返されてきた。「正統」に拘（こだわ）り異なる意見を認めなかったのだ。

　だから仏教と儒教が共存することもなかった。仏教を保護した高麗が滅び、李朝になると朱子学を取り入れ、城内から寺院を追い出した。そのためソウルは京都のように街の中に古寺がないのである。

　ところで、米国議会でトランプ大統領が一般教書演説を行った際、ペロシ下院議長（民主党）は冒頭の握手を大統領が拒否したことに対し、演説後には原稿コピーを破り捨てた。これほど露骨に拒否感を露（あら）わにしたシーンも珍しい。いくら選挙戦に突入したとはいえ、敵愾心（てきがいしん）剥き出しには驚かされる。

　移民の国アメリカは本来、多様性が活力を生んできた国だ。それがこのような不寛容を連邦議会議長が示すようになったのを見ると、明らかに米国が変化してきていることが分かる。

　そしてトランプ大統領にも文大統領にも不動の「岩盤支持層」があるが、不寛容の裏返しだ。わが国の安倍首相にも同じような傾向がみられる。しだいに世界は不寛容になり「中庸」が薄れてきているのではないか。

（岩崎　哲）