中朝首脳会談、今度は習氏に仲介させるのか


 中国の習近平国家主席が就任後初めて北朝鮮を訪問し、金正恩朝鮮労働党委員長と会談した。正恩氏は2月に行われた2回目の米朝首脳会談が決裂した後、米国から制裁緩和を引き出すための交渉再開にメドをつけられずにいた。後ろ盾となる習氏を仲介に立て、トランプ米大統領との3回目会談にこぎつけたいようだ。

 狙いは3回目米朝会談

 会談で習氏は「朝鮮半島問題の政治的解決を支持する。北朝鮮の懸念を解決するため、できるだけの手助けをしたい」と述べた。米国の軍事攻撃に反対し、あくまで対話による妥結を模索するよう促すと同時に、米国が制裁緩和に応じないという北朝鮮の懸念を払拭(ふっしょく)するため力を貸すということだろう。

 正恩氏は「われわれが望むような関係国の積極的な反応を得られなかった」として米国を暗に批判。「関係国が歩み寄り成果が得られることを希望する」と米国に譲歩を促した。相変わらず完全非核化の意志は曖昧だ。

 習氏訪朝には今週、大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議に出席する前に自らの北朝鮮への影響力を誇示し、貿易問題などで対立を深める米国に対し交渉を有利に進めるカードを確保する狙いがあったとみられる。正恩氏としては、米国牽制(けんせい)で利害が一致する習氏を仲介にトランプ氏との会談実現へ弾みをつけたかったのだろう。

 来年の大統領選への出馬を表明したトランプ氏が、北朝鮮との対話継続を外交成果としてアピールするため正恩氏との3回目会談を開く可能性はある。両首脳の間で手紙が交わされ、雰囲気づくりも始まっている。だが、要注意だ。正恩氏は段階的非核化、それも最終的な核の完全廃棄が全く見通せない時点での制裁緩和開始を取り付ける戦術から一歩も引いていない。

 昨年6月の米朝首脳初会談で合意した内容について、北朝鮮は米朝の新しい関係づくりと朝鮮半島の平和体制構築を行った後に非核化に進むと理解しているようだ。完全非核化に踏み込めると思った米国との解釈の相違が残ったままだ。北朝鮮は3回目会談でこの合意を根拠に持ち出す恐れがある。

 正恩氏は今回の習氏との会談でも米国が制裁緩和に動かないことを念頭に「忍耐」していると強調した。しかし、国際社会の方こそ業を煮やしている。北朝鮮は非核化に期待を持たせながら米朝会談を繰り返すことで制裁緩和に誘導しようとし、米国の政治情勢を利用し局面打開まで時間を稼ごうとしている。

 北朝鮮は制裁長期化も想定し中国やロシアとの関係を強化している。「瀬取り」などの制裁破りに両国が協力していないか厳しく監視する必要がある。

 文氏は対北政策見直せ

 韓国の文在寅大統領は南北首脳会談などを通じ米朝の仲介役を自任してきたが、今月末のトランプ氏訪韓を前に正恩氏に会談開催を申し入れたものの返答がなく、正恩氏が仲介役を文氏から習氏に代えたとの見方も出ている。制裁緩和を引き出せなかった文氏が、それに失望した正恩氏に「使い捨て」にされたとすれば、文氏は対北政策を全面見直しすべきではないか。