香港大規模デモ、一国二制度を形骸化させるな
香港で身柄を拘束した容疑者を中国本土へ移送できるようにする「逃亡犯条例」改正に反対する香港の民主派が、香港島中心部で大規模なデモを行った。
主催者発表で103万人
デモを主催した民主派団体「民間人権陣線(民陣)」は103万人が参加したと発表。発表通りであれば「(1997年の)返還後最大」のデモとなる。警察発表では24万人だった。
昨年、台湾旅行中に殺人を犯した男が香港に逃亡し、台湾での訴追を免れた事案を理由に、香港政府は条例改正の検討を始めた。中国本土など、容疑者引き渡しに関する協定を結んでいない全ての国・地域に、香港の裁判所が認めれば容疑者を引き渡せるようにすることが柱だ。
しかし条例改正ををめぐっては、中国政府が民主活動家ら政府に不都合な人物の引き渡しを求める恐れがあるとして、民主派や国際社会が憂慮している。中国側とビジネス上の紛争を抱える各国の企業関係者が引き渡しの対象になる可能性も否定できない。
このようなことが実行されれば、恐るべき人権侵害だと言わざるを得ない。香港政府は、移送対象から政治犯を除外し、殺人などの重大犯罪に限る方針を示しているが、中国では政治犯を別の容疑で拘束することも珍しくないため、懸念は消えない。大規模デモは民主派の強い危機感の表れだと言えよう。
大規模デモ後、香港政府トップの林鄭月娥行政長官は条例改正案を撤回する考えはないと強調。中国政府も改正を支持する立場で、中国政府の香港出先機関は先月、親中派の政界人を集めて改正支持を促した。
改正案は、あすから立法会(議会)で本格的に審議される。立法会は親中派が多数を占め、採決されれば成立は確実とみられている。
この7月で香港は返還22周年を迎える。「一国二制度」の下、高度な自治が認められているが、「一国」を「二制度」よりも優先する中国の習近平国家主席によって民主派への締め付けが強化されている。
2016年には、立法会で中国に批判的な就任宣誓を行った議員に対し、基本法の解釈権を持つ全人代常務委員会が宣誓に関する法解釈を示して最終的に6人を失職に追い込んだ。
条例が改正されれば、締め付けが一層強まるのではないか。中国共産党政権は、香港返還の際の国際公約である一国二制度を守るべきだ。香港の高度な自治を踏みにじってはならない。
民主派はあすも反対集会を実施するとしている。東京で記者会見した民主派の女性幹部は「返還後、最も危険な法案だ。香港だけでは力が足りない。国際社会の関心も重要だ」と訴えた。日本はもちろん、香港と自由や民主主義の価値観を共有する各国は、この訴えに応える必要がある。
日本にとっても深刻
中国共産党政権は台湾に関しても、一国二制度による統一を目指している。香港で一国二制度の形骸化が進めば、中国による台湾への圧力が強まり、日本にとっての脅威も高まるだろう。日本は香港の情勢を深刻に捉えるべきだ。