天安門事件30年、民主化要求は抑えられぬ


 中国の首都北京の天安門広場やその周辺で民主化や腐敗撲滅を求めた学生や市民に対して人民解放軍が発砲し弾圧、多数の死傷者が出た天安門事件から、きょうで30年を迎える。

 この事件で中国は国際社会から激しい批判を浴びたが、中国の人権状況は当時よりも悪化していると言える。

 共産党独裁堅持する中国

 流血の大惨事となった天安門事件の死者について、李鵬首相(当時)は319人と明らかにしたが、実際はもっと多いとみられている。数百人から数万人まで複数の説がある。

 当時の学生リーダー、王丹氏は時事通信のインタビューで「あれから30年がたち、われわれはもはや共産党が民主化を掲げるという希望や誤った幻想を抱いてはならない」と訴えた。

 共産党一党独裁体制を堅持する中国は、自由や民主主義、基本的人権の尊重などの価値観を受け入れようとはしない。事件後も言論弾圧を強め、チベット族やウイグル族など少数民族の抑圧を進めている。

 ペンス米副大統領は「100万人のウイグル族を施設に閉じ込めている」と非難した。独裁維持のため、国民の人権を侵害することは糾弾されて当然だ。

 歴代共産党指導部は天安門事件を消し去ろうとしている。人工知能(AI)による自動検閲システムを用いて、インターネット上で事件に関わる日付や画像などをブロックしている。中国メディアが事件を取り上げることも許されていない。国内では事件の記憶が薄れつつあるという。

 それでも、事件は共産党政権に重くのしかかっている。民主化を求める学生に同情した当時の趙紫陽総書記が解任されたことを引き合いに、習近平国家主席が強大な核心権力を確立したのは天安門事件を教訓にしたものだと分析する専門家もいる。

 しかし、どれほど弾圧を強化しても民主化を要求する人々の声を完全に抑え込むことはできまい。共産党独裁を永続させることは不可能である。

 日本政府は事件後、対中制裁を強化した欧米諸国とは一線を画して「中国を孤立させない」と真っ先に政府開発援助(ODA)を再開させ、関係改善を進めた。こうした日本の対中外交の在り方も問われている。

 日本の対応を「突破口」に国際社会に復帰した中国は急速な経済発展を続けたが、「経済成長すれば民主化に向かう」との世界の期待は外れ、既存の世界秩序に挑戦する「強国」となった。日本に対しても沖縄県・尖閣諸島の領有権主張を強め、中国公船が尖閣周辺で領海侵入を繰り返すなど、地域の安定を脅かす存在となっている。

 事件後の日本の対中姿勢に甘さがあったことは否めない。6月に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議に習氏が参加するなど、現在も日中関係は改善基調にあると言われる。しかし、共産党独裁の中国と信頼関係を築くことは難しいのではないか。

 人権弾圧への批判強めよ

 日本は中国の覇権主義的な動きを警戒するとともに、国際社会と共に人権弾圧への批判を強めるべきだ。