ウイグル人抹殺を謀る中国、強制収容300万人に「政治学習」

東トルキスタン共和国亡命政府大統領 アフメットジャン・オスマン氏に聞く

 中国共産党によるウイグル人への弾圧が厳しさを増している。国内に多数の強制収容所を設置し、多くのウイグル人を拘束して「政治学習」を行っているという。ウイグル人が受けている民族弾圧の実態について、海外にあるウイグル人組織の一つ「東トルキスタン共和国亡命政府」(拠点・米国ワシントン)の大統領で、著名な詩人でもあるアフメットジャン・オスマン氏に話を聞いた。
(聞き手=石井孝秀)

信仰と言語奪い、精神を抑圧
中国覇権主義の拡大阻止を

今年7月、米国のペンス副大統領が講演で、中国の新彊ウイグル自治区(東トルキスタン共和国)で数十万から数百万のウイグル人が強制収容されていることに言及した。また8月には国連の人種差別撤廃委員会でも懸念が表明されたが、この強制収容所では何が行われているのか。

アフメットジャン・オスマン氏

 アフメットジャン・オスマン 1964年東トルキスタン共和国(新彊ウイグル自治区)ウルムチ市生まれ。新疆大学文学部に入学後、シリアのダマスカス大学に留学。2009年に東トルキスタン共和国亡命政府に参加し、15年11月には大統領に選出。ウイグル現代文学を代表する著名な詩人でもある。

 収容所のことを中国側は“再教育センター”と呼んでいる。この呼び方は第2次世界大戦でドイツがユダヤ人に行ったホロコーストに似ているが、内容は当時より残酷だ。

 米政府系放送局のラジオ・フリー・アジアによると、現在の収容人数は300万人に達した。主にウイグル人で、カザフ人も含まれている。

 ここで朝から晩まで行われているのは政治学習だ。例えば、朝起きた時には中国国歌を歌い、国と共産党への忠誠を一人一人誓わされる。さらにその後、習近平国家主席を称(たた)えさせられる時間が続く。

 小さな部屋に20人ほどが雑魚寝しているため、衛生状態は極めて悪く、病気で亡くなった人も多い。

 また、収容施設の近くには大規模な火葬場が建てられている。われわれイスラム教徒は土葬なので遺体は焼かない。おそらく収容したウイグル人の臓器売買をするためだろう。収容された人が亡くなると家族には知らされるが、遺体は決して帰って来ない。

 中国国内の臓器売買の市場は非常に大規模だが、法輪功(仏教・道教の教えを取り入れた気功集団)の臓器売買に対して国際社会の目が厳しくなってきた。そのため、ウイグル人収容者の臓器でこの市場を支えているのではないかと私たちはみている。

 今年の1月にはウイグル自治区のカシュガルの空港に、多くの臓器を速やかに運ぶための専用通路が設けられていることが分かった。この通路はカシュガル以外の地域にも存在する。強制収容所に親が入れられ、残された子供たちが臓器売買の対象になる可能性も捨て切れない。

ウイグルへの弾圧が強まったことと中国政府が進める一帯一路政策との関連は。

 「新シルクロード」と呼ばれる一帯一路政策は、表向きには経済政策だが、2050年までに中国が世界の覇者になろうという狙いにほかならない。

 ウイグル自治区には石油や天然ガスなど豊富な地下資源が眠っている。国防的にも要所に存在しているため、これまで中国はウイグルにこだわってきたが、一帯一路政策によって、中央アジア、中東、ヨーロッパなどに向かう「新シルクロード」の動脈がウイグルに集中してしまった。

 この地域が安定しないと中国の世界制覇の夢は失われる。そのため、ウイグルの民に多くの犠牲を払わせて、自分たちの陰謀を守るつもりだ。

 最初に強制収容所に送られたのは宗教指導者たちだった。それから知識人やポップ歌手など、ウイグル社会で影響力のある人から順に送られた。

 ウイグル社会が何の役割も持たない社会になり、土地だけが存在する状態になる。それが中国の望む結果ではないかと私は思っている。まさに人類に対する犯罪だ。

イスラム信仰への弾圧が強化され、教育現場などではウイグル語が制限されているが、これらの動きをどのように見ているか。

 中国が宗教弾圧を加えるのは、イスラムの教えに自分の国や財産などが脅かされたとき、手に武器を持てというジハードの精神があるからだ。宗教を抑えることで、立ち向かおうとする精神を抹殺する意図を持っている。

 今、70%以上のモスクは破壊された。18歳以下はモスクに入ってはいけないという看板が出ており、さらに学生や会社員、公的機関で働く人も入ることが禁止された。

 それだけでなく、若い女学生がインターネットで宗教指導者の話を聞いただけで10年の実刑判決になった。しかも1人ではなく十数人もだ。

 われわれが信仰と言語を失えば、中国にとって支配しやすくなるだろう。

 私は大統領としてだけでなく、詩人としても生きている。私たち詩人は言語の中に生きている人間だ。言語は水に似ており、私たちはその中で魚として生きている。水をなくした魚は消えてしまう。

 私は詩人として、ウイグル語を守り抜く役目を強く感じ、それを果たさなければいけないと思っている。それは私のような在外に生きる全ての文人・詩人たちの聖なる役目だ。

ウイグル以外に中国から迫害される少数民族との今後の関係や日本に対して期待することは。

 チベットやモンゴルなどと連携して、中国覇権主義がアジアや世界に広がることを阻止しなければいけない。東トルキスタンの独立問題はアジア各国の主権を守ることやアジアの平和につながる。

 日本、インド、台湾などにも、直接的ではないが侵略の手が延びている。みんなで輪になって互いを守り合うことが私の願いだ。

 日本はアジアにおいて、リーダー国としての役割があることを忘れないでほしい。アジアの経済大国であり、科学技術においても、伝統文化を守ることにおいても、私たちが学ばなければならないことがたくさんある。

 そのリーダー国が私たちのように侵略された国土の問題を率先して解決すべきだ。この問題と真剣に向き合うことは、侵略者の手がほかに延びることを防ぎ、日本の戦争抑止力にもつながるだろう。