中国国防費、支配領域の拡大強化を懸念


 中国の2018年の国防費が前年実績比8・1%増の1兆1000億元(約18兆4500億円)と発表された。伸び率は3年連続で1桁だったものの、前年の7・0%よりも高い。経済成長率の目標をも上回っており、習近平政権下で軍拡路線、支配領域拡大の動きが強化されることが懸念される。

実際は公表額の2~3倍

 中国の国防費について論議する場合、留意すべきは毎年発表されるのは“公表国防費”であって、他の主要国の国防費と概念が大きく違うという点である。第一に主要国の国防費で高い比率を占めている最新兵器の研究開発費が、別の省予算に組み込まれている。また、地方部隊の駐屯経費も一部が地方政府の負担になっている。

 このほか、兵器輸出による収入の一部も国防費に組み込まれていないとみられている。それに日本や欧米主要諸国と比べ、兵器の調達費が極めて安い。日本と違って徴兵制を採用している中国は、国防費中に占める人件費率は非常に低いという点も忘れてはならない。これらの状況を勘案すれば、実際の国防費は公表額の2~3倍に達するとみる学者もいる。

 中国の国防費を論議する際、しばしば言われることは「透明性が低い」とう点だ。問題は独裁権を樹立した習政権が、この巨額の国防費をいかに使用するかにある。習政権の国家戦略の特徴は、鄧小平時代に確立された「陸地の分割は終わり、今後は海洋の再分割が始まる」との認識を実行に移しているという点にある。

 南シナ海での中国の支配権が確立すれば、日本の中近東地域からの石油運搬ルートがふさがれてしまう。しかしわが国は、中国の動きを人ごとのように捉えている。中国の南シナ海支配による影響は米国より日本の方がはるかに大きい。それなのに、米国の「航行の自由作戦」を眺めているだけでよいのか。

 南シナ海支配の次は、シルクロード経済圏構想「一帯一路」の実現に力を入れ、インド洋、西太平洋での軍事力の展開を本格的に開始しよう。西太平洋での支配権確立には、出入り口である尖閣諸島を含む沖縄周辺島嶼の確保が不可欠である。日本が北朝鮮の核武装の動きに目を奪われているうちに、中国は沖縄県民への世論工作を強化するとともに、土地の確保などでも着々と実績を積み重ねている。

 国際司法裁判所の判決では、領土問題では古文書よりも実効支配を重視しがちである。自国領土と言っておきながら、灯台設置や漁民の避難所建設など実効支配の措置を取らなければ、司法裁判所の場で争っても敗れかねない。

 一方、尖閣諸島防衛についても中国軍が上陸してから排除する方針を打ち出している。だが、奪還に成功するとしても多くの犠牲を生む最も拙劣な戦術である。再考が求められる事態になってきた。

覇権主義に手を貸すな

 安倍晋三政権は当初、一帯一路への協力を拒絶していたが、二階俊博自民党幹事長の主張を受け入れ、方針を転換したようだ。中国の覇権主義に手を貸すことがあってはならない。