違法民泊、深刻な実態の把握を急げ


 行方不明になっていた兵庫県三田市の女性会社員とみられる切断された遺体が見つかった事件で、県警は監禁容疑で逮捕した米国籍の男を死体損壊・遺棄容疑で再逮捕した。

 この事件では、遺体の遺棄や監禁場所として大阪市内の違法な民泊施設が使われていた。行政は違法民泊の実態把握を急ぐべきだ。

 凶悪犯罪に利用される

 男は大阪市東成区のマンションの一室で女性の遺体を切断するなどし、頭部を大阪市西成区の民泊施設に遺棄した疑いが持たれている。残虐極まりない犯行だ。

 問題は、西成区の民泊施設が旅館業法の許可を得ず、国家戦略特区での認定も受けていなかったことだ。東成区の部屋も違法な民泊とみられている。

 違法民泊は行政のチェックが行き届かないため、かねて犯罪の温床になると指摘されていた。正規の民泊の場合、外国人が宿泊する際はパスポートの提示やコピーの保管が義務付けられている。しかし、違法民泊はこうした身分確認が不十分な施設があるという。ポストを介して鍵を受け渡し、誰にも会わずに利用できるケースもある。

 大阪市では東京都大田区や大阪府に続いて2016年10月に民泊が解禁され、需要も増加の一途をたどっている。だが、今年1月末までの約1年4カ月で「違法民泊ではないか」との通報が4000件以上あった。

 民泊を全国で本格的に解禁する住宅宿泊事業法(民泊新法)が6月に施行される。政府は東京五輪・パラリンピックが開かれる20年の訪日客4000万人実現を目標に掲げている。宿泊施設不足を解消する上で民泊への期待は大きい。

 しかし、住民の安全を脅かしかねない違法民泊を野放しにはできない。厚生労働省が16年に実施した調査では、民泊仲介サイトに登録されている約1万5000件のうち、8割以上が無許可か物件の特定が困難だったという。深刻な状況だと言わざるを得ない。

 民泊サイトでは予約者でなければ部屋の詳しい住所が分からない物件が増えていることもあり、違法民泊の実態把握は簡単ではない。今回の事件でも、容疑者の男は海外のサイトから部屋を予約していた。兵庫県警は男についてサイト運営者に照会しているが、回答を得るのは難しい状況だ。

 だが手立てを講じなければ、今後も違法民泊で凶悪犯罪が起きることを防げないのではないか。行政は民間の力を借りてでも実態解明を急ぐ必要がある。

 政府は東京五輪に向け、テロ対策強化に力を入れているが、違法民泊を放置しておけばテロリストのアジトとして使われる恐れもある。15年11月に発生したパリ同時多発テロでは、犯行グループが知人を介して借りたとみられるアパートが潜伏先となった。身元申告が求められるホテルを避けたとの見方も出ている。

排除の徹底が必要だ

 民泊は、日本が「観光立国」を推進する上で欠かせない存在だ。住民や観光客の信頼を高めるには、違法民泊の排除を徹底しなければならない。