NZの水資源管理に学ぼう
住民参加し情報も開示
日本はコンクリで生態系破壊
近年、地球生態系に関する世界的関心は高まっているが、日本では、防災の名目でコンクリートによる自然生態系の破壊が進行している。台風21号による被害でも早速公共事業の拡大の検討が始まった。西洋諸国はすでに、土壌、地下水と湿地保水力や自然海岸の防災力など自然の力を活用した防災に力点を移行している
ところで、8月にニュージーランド(NZ)を訪問し、森川海と水の管理と生態系の保護の現状と問題について学んだ。
第1次産業省によればNZでも一見異なって見えるが、本質的には日本と同様の自然破壊の進行という問題を抱えているという。NZへの初期入植者たちは、森林を伐採して畑や草地を作り、農地や羊の放牧地にした。針葉樹林の植林をしたが根が定まらず土壌の流出が起こった。
その後、羊放牧数を大幅に減らし、価格が有利な酪農を目的とした牛放牧を行った。その結果、牧草の育成用肥料で栄養分が、牛の排泄(はいせつ)物で窒素分が過剰になり、富栄養化が起きて、水質の悪化につながった。これらの具体的な規制策は、NZでは、地方自治体が講じることとされている。第1次産業省は農業・酪農の基本方針を定めるのみである。
また、水産政策に関しては、政策のレビューをした結果、2017年から海洋生態系アプローチの概念の資源管理への導入を決定した。現在の水産資源管理はタイならタイの単一魚種管理を行っているが、これでは不十分だとの考えが強かった。魚種が漁獲される湾全体の海洋生態系の保護(海島や海産哺乳動物の混獲数量やその基準)にNZ国内外のスーパーマーケットや消費者が強い関心を有しており、これに応える政策に変更された。今後、湾の生態系全体が良好かどうかの情報が提供されることになる。
NZ政府による生態系の概念の樹立やデータ収集など具体的な方策については、今後の課題である。
NZでは環境省が水資源の管理を担当するが、水源には所有権が設定されておらず、誰でも自由に地下水を含め採取できる。このために最近では、NZ水を大量に海外へ販売する会社が出現し大きな問題となっていて、取水制限やさらには取水量削減の措置を導入せざるを得ない状況である。
牛放牧による水汚染も大きな問題であり、農業や牧牛草地の肥料散布制限は、肥料や窒素流入量を地下水のボーリング調査で測定して科学的情報として入手し、それに基づき肥料使用量の削減量を決定している。
河川や地下水からの取水量決定や肥料・飼育頭数削減も地方自治体が定める。
ダニーデン市にあるNZ最古のオタゴ大学準教授によれば、NZの水資源管理に責任がある地方自治体がしっかりしているわけではない。科学的根拠ついてのデータが十分でもない。大河川にはデータがあり、最低河川水量も決められているが、小規模河川については研究らしいものもない。環境省の17年環境ステートメントは単なるペーパーである。規制のモニターもない。
地方自治体では、科学者の提言に基づいて、取水量の制限や最低河川水量が提言されるが、NZでは全員参加型で水量規制や排水基準を決定するため、酪農家は積極的に発言し、規制を緩やかにしようとする。一般市民は忙し過ぎるので、酪農家はロビーストを雇い自らに有利な活動ができる。
また、河川へ排出される窒素分の削減のための植林義務が決定されても、酪農家は守らない。植林のためのコストは多額に上るし、補助金反対の政府が支援することはない。農民・酪農家の声が大きく、通常でも薄弱な科学的根拠であるにもかかわらず、それも軽視されて実に心もとない水資源管理政策である。
一方、日本ではシロサケの16年の漁業生産が3分の1に減少した。サケは卵の粒が小さく、その数も減少し、孵化(ふか)率も大きく下がった。大雨の時には水の量が多いが、普段は異常に少なくなった。栄養面でも、良質の土砂も少なくなった。
17年に入り北海道ではサケが昨年に比べさらに60%しか戻らない。生態系が埋め立てや土地のかさ上げ砕石で大きく変わった。
陸前高田市では防波堤が造られて湿地帯や自然砂浜を喪失、潟湖(せきこ)もコンクリート建設で固められた。生態系保全の観点からは見る影もない。コンクリートで固める工事の利益者は誰か。第1次産業から見れば生産力を阻害してマイナスである。
NZは80%以上の国土を森林が占めていたが、それを伐採し、羊を飼い、最近では収入の大きい酪農を導入している。牛の空気中へのゲップも温室効果ガスを排出し地球温暖化の原因といわれる。
NZはそれでも科学的根拠に基づき、情報公開をしながら、全員参加の水資源管理を行っている。片や日本は行政庁が税金で建設や埋め立てを行い、当然説明と開示義務があるにもかかわらず、住民の意見も聞かず、情報も開示しない。少なくとも住民を大切にする民主的な説明責任と情報開示の姿勢はNZに学びたい。
(こまつ・まさゆき)