比大統領、戒厳令を継続

潜むマラウィ市占拠の残党

 フィリピンのドゥテルテ大統領は10月17日、イスラム過激派による占拠が5月23日から続いていた比南部ミンダナオ島のマラウィ市に入り、過激派からの解放を宣言した。続いて10月23日に国軍が制圧作戦の終了を宣言。30日には東京で日比首脳会談が行われ、ドゥテルテ大統領は安倍晋三首相からマラウィ市復興支援などの協力を得た。比政府は本格的な市の再建に向けて動き出したが、依然として過激派の残党が活動しているとの情報もあり、戒厳令を維持したまま報復テロへの警戒を強めている。
(マニラ・福島純一)

解放後の復興、日本にも期待

 フィリピンの国軍当局は10月16日、マラウィ市占拠を主導したイスラム過激派アブサヤフのリーダーのイスニロン・ハピロン容疑者と、イスラム過激派マウテグループのリーダーのオマル・マウテ容疑者の死亡を確認したと発表した。

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フィリピンのドゥテルテ大統領(左手前から4人目)と会談する安倍晋三首相(右手前から2人目)=10月30日午後、首相官邸

 2人は過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓い、マラウィ市占拠事件を起こしたイスラム過激派の中心的人物。特にハピロン容疑者は、ISからイスラム教の最高権威者である「カリフ」の称号を得るなど、東南アジアにおけるイスラム過激派の重要人物と見られたことから、米政府は500万ドルの懸賞金を懸けてその行方を追っていた。

 国軍によると、救出した人質からハピロン容疑者とマウテ容疑者の居場所に関する情報を確認し、交戦の末に2人を含む7人の過激派メンバーを殺害したという。

 5月23日から始まったマラウィ市占拠事件では、終結までに800人以上の過激派メンバーと160人以上の国軍兵士、50人近い民間人を含め1000人以上の死者を出し、避難民は40万人を超えるという大きな災禍をもたらす事態となり、ドゥテルテ大統領は戒厳令を布告するに至った。

 国軍は制圧完了を宣言したが、2人のリーダーを失ったイスラム過激派が報復テロに走る可能性を指摘し、警戒を維持する方針を示している。マラウィ市解放を受け戒厳令の早期解除も期待されていたところだが、ドゥテルテ大統領は、過激派の残党の存在を理由に戒厳令を継続する方針を示した。

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6月25日、フィリピン警察が撮影し公開した、南部ミンダナオ島マラウィ市の戦闘で荒廃した市街地(AFP=時事)

 マニラ首都圏ケソン市では10月26日、マウテグループに資金を援助していた男が逮捕されている。逮捕された42歳の男は同グループのリーダーであるマウテ兄弟(アブドゥラ・マウテ、オマル・マウテ)らの義理の兄弟で、商業施設でバザーを開催して得た資金をマウテ兄弟の妻に送金していた疑いが持たれている。

 男の自宅からは拳銃の他ロケットランチャーなどの武器が発見されたが、マニラ首都圏警察は具体的なテロの脅威は確認されていないことを強調し、今月中旬に開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の警備に自信を示した。国軍によるとイスラム過激派の残党は200人ほどで、一匹狼的な報復テロの可能性もあるとして国民に警戒を呼び掛けている。

 マラウィ市では過激派掃討作戦の終結を受け、安全が確認された地域の住人約5000人が市内への帰還を認められ、約5カ月ぶりの帰宅を果たした。激しい銃撃戦や国軍による空爆で廃虚と化した市内は、水や電気の供給などインフラに問題を抱えているだけでなく、過激派が仕掛けた大量の爆弾の撤去も必要となっており、復興の道のりは険しい。

 イスラム過激派の略奪行為で財産を失った市民も多く、政府の支援が必要不可欠となっている。日本を訪問したドゥテルテ大統領と首脳会談を行った安倍首相は、テロとの戦いへの全面的な支持と、マニラ首都圏の地下鉄建設事業などの他、マラウィ市の再建に向けた復興にも支援を行うことを表明しており、フィリピンでは期待が高まっている。