台北からナポリ、東京五輪へ
大成功の「台北ユニバ」
台湾は「台湾」と表記すべし
8月31日午後4時、台北市の総統府前を出発した「世大運英雄大遊行」の隊列は、1時間半をかけて市内を横断し、台北市政府前に到着した。蔡英文総統の満面の笑みで送り出された大パレードは、十重二十重の大群衆に覆われた9キロのコースを通って、終着点の市政府前広場で、雲集した市民と共に待ち構える柯文哲市長等に迎えられた。
本年8月19日から30日まで、台北市で世界の大学スポーツの祭典、ユニバーシアードが開催され、大成功のうちに終幕を迎えた。台湾の選手たちは、金26個、銀34個、銅30個という、世界第3位の数のメダルを獲得した。
選手たちをたたえる上述のパレードは、ジープ16台、大型バス6台を含む25台の長大な車列で、その規模は2016年10月7日に銀座で行われた、リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピックの日本選手団合同メダリスト祝賀パレードをしのぐものだった。
開催期間中、台湾のテレビや新聞はあたかもオリンピックのような報道ぶりであり、台湾の人々は各競技に注目し、台湾選手の活躍に熱狂した。その最終章があの大パレードだったのである。
ユニバーシアードは、世界大学スポーツ連盟(FISU)が2年に1度開催する総合スポーツ大会である。夏季大会の参加国数は、前回、韓国・光州大会で143カ国、今回は、前回より2カ国多い145カ国、総勢1万1397人が参加した。その規模は、夏季オリンピックのロサンゼルス大会の参加国が140、ソウル大会が159であったこと、参加人数では12年ロンドン大会が1万568人、昨年のリオ五輪が1万1237人であったことと比較して、准オリンピックと言うべきものだ。台湾がオリンピック並みに盛り上がったのも不思議ではない。
ところで日本は今回、塚原光男団長の下、昨年のリオ五輪競泳金メダルの荻野公介主将以下、508人の大選手団を送った。水泳では荻野のほか瀬戸大也、大橋悠依が金メダルを獲得、柔道、男女ハーフマラソン、20キロ競歩、男子卓球、そして男子400メートルリレーも金メダルだった。全部で金37個、銀27個、銅37個、合計101個を獲得、金メダル数も総メダル数も世界1位、日本史上初の快挙を成し遂げた。
つまり、3年後の東京オリンピックにつながる素晴らしい結果だったのだが、日本のメディアはあまり注目せず、現地の盛り上がりは全く伝わらなかった。他方、この8月のロンドン世界陸上は、日本が獲得したメダルは全部で3個だったが、テレビは終夜放送を含め、ライブ中継した。バランスを失していないか。日本のマスコミは、世界で活躍する日本の若者の姿を、もっと伝えるべきである。
さて、今大会で中国は、金9個を含むメダル17個を得たが、前回、15年の金34個を含む71個に遠く及ばなかった。これは、団体戦に代表チームを派遣しなかったためである。
中国は、蔡英文政権が、中国の主張する「一つの中国」原則を認めないことに対する政治的圧力として、団体戦への参加を見送ったのである。中国の主張では、中国と台湾は、共に「一つの中国」であり、この原則を認めるよう台湾政府に対して圧力を強めているが、民進党の蔡英文総統はこれを認めない。そもそも、自由と民主主義を確立した今日の台湾国民の大多数は、自らを「台湾人」と自認しており、共産党一党独裁の中国の一部になりたいとは思っていない。結局のところ、「一つの中国」原則は、北京政府が台湾を吸収するための前提にすぎないから、蔡英文政権が認めないのは当然である。
残念ながら国際社会では、中国の主張が通り台湾の声は軽視される。このため世界貿易機関(WTO)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)では、台湾は国家として認められず、「台澎金馬個別関税領域」や「中華台北(Chinese Taipei)」という名称での加盟を強いられている。国際オリンピック委員会(IOC)やFISUでも、台湾は「中華台北」である。准オリンピックを成功裏に開催しても、なおかつ台湾は一人前に扱われない。「中華台北」は、中国の一部としての「台北」であって、台湾全体を指す語ですらない。台湾の人々の不満は大きい。
東京オリンピックまであと3年を切ったが、その前年、19年にはイタリアのナポリでユニバーシアードが開催される。ナポリ大会では、日本選手団に再び世界最多のメダルを期待したい。併せて、日本のメディアには、ライブ中継を含めて相応の報道をしてほしい。その時、日本のメディアは、台湾を何と呼ぶだろうか。「中華台北」とするのか。日本には、45年前の1972年9月29日の日中共同声明によって、台湾問題では中国の主張に合わせ、台湾を「台湾」として扱ってはいけないと信じている向きがある。しかしそれは、誤った思い込みにすぎない。
日本のメディアは、ユニバーシアード・ナポリ大会で、中国を「中国」、台湾を「台湾」と呼ぶべきである。野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の時には、そうしているではないか。こうして45年前の呪縛(じゅばく)を断ち、2020年の東京オリンピックでも、中国を「中国」、台湾を「台湾」と表記すべきである。
(あさの・かずお)