米国迷走による空白埋めよ
日印に期待するアジア
着々と覇権確立進める中国
この夏休み、私の一番の関心は北朝鮮の核実験とそれに対するトランプ米大統領の迷走振りであった。その一方火事場泥棒のように中国がアジア各国においてさまざまな挑発、恫喝(どうかつ)をして他国の領土領空を侵しながら、他方では一帯一路の夢を売り込み、それとの関連での政府開発援助(ODA)などを巧みに利用して東南アジア諸国連合(ASEAN)の分断を始め、遠くは中南米まで入り込んで世界の覇権国としての存在を確立しつつある。具体的には台湾と国交を堅持していた数少ない国であるパナマと台湾の国交断絶に成功した。
アジアにおいてはASEANの国々の内部分断や、ASEANの外相会議での中国批判を阻止しただけではなく、南シナ海などに関する行動規範を設定することに成功し、日本やアメリカなど地域外の国々の関与についても排除することにそれなりの成果を収めている。港の建設、ハイウエーおよび鉄道の建設構想なども着実に実現に向けて進行している。
私はアジア諸国の現地の人々から直接話を聞き、雑誌、新聞などに目を通す限りでは、アジア諸国の一般国民の多くは中国に対し、強い脅威と警戒心を持っているが他方、政府関係者や経済界のリーダーたちは中国の一帯一路に基づく大きな夢が極めて危険な要素も潜在していることを覚悟の上、アメリカが頼りにならないという不安定な状況の中、中国との関係悪化、そしてバスに乗り遅れることを恐れ、結局中国との関係を維持または発展せざるを得ないジレンマに陥っている。
しかしそのアメリカのトランプ大統領は就任以来半年間、顧問や補佐官などをちり紙のように取り替え、実際はまだ幹部の半分以上も空席のままであり、彼の大統領当選に大きく貢献したスティーブン・バノン氏までも解任してしまい、今後も暴走と迷走を続ける様相を呈している。ここで本来であればアメリカによって生じている空白に日本やインドが大きな力を発揮することにアジア諸国は期待を持っているが、今のところは残念ながらそのような期待に応える様子も見られない。
ブータン王国のドクラムという場所に侵入し道路を造り始めた中国軍は、インド軍とにらみ合いの状態を2ヵ月以上も続けていた。中国政府は逆に、インドが先に撤退するように要求し、あたかも自分たちが被害者であるかのように世界世論を混乱させている。ブータンが立憲君主国として民主化して以来、それまでのインドの保護国的な立場から独立国家として安全保障に関する協定に基づき、インド軍に出動を要請しインド軍はそれに応えている。
このドクラムという地域は、本来であればチベット、残念ながら現在は中国とインドのシッキム州とブータンの3国が近接した極めて地政学的に重要な地域である。また中国によるインドへの挑発、領土侵犯はインド野党議員によると200回以上行われており、少し入っては追い出され、多少下がって見えても実際はじわじわと進出をしている。
もちろんインド政府も黙っているわけではない。特にモディ首相は3年前の総選挙で「自国の領土を1インチたりとも侵略させない」という公約の下、当選しており、その後、国家安全を促進するためのインフラなどには積極的に対応しており、長年イスラムの国々に対して遠慮していたイスラエルとの安全保障面での関係強化と、「血は水より濃い」という観点から隣国のネパールもインドと安全保障面での関係を強化する合意を取り付けた。
読者の皆様もご承知のように中国は頻繁に日本の領海領空を侵しており、日本の固有の領土に対しても不当な領有権を主張している。日本の中には残念ながら自国の国益よりも幻想的平和主義と正義感に走り、中国や韓国をあおるような行動も少なくない。例えば8月15日に合わせてNHKが報道した731部隊の中国における人体実験に関する放映は、なぜこの時期に放送する必要があるのか理解に苦しむ。真実や事実であるにしてもこの時期に放送することに何を求めているのか。それが本当の日中、日韓の真の理解や友情に貢献するかを考えるべきだと思う。
幸いに今回の民進党の代表選挙における前原誠司氏の国益の認識や、民進党を離党した細野豪志氏の発言で私はかすかな期待を持った。というのもテレビの討論会で細野氏は本来与野党は国内の政治に関しては社会福祉や教育などで大いに争っても、外交や防衛問題に関しては国益に基づく同じ考えがあるべきだと、まさに世界の常識に適した発言をした。
日本が本当に二大政党の出現を望むならば、国の安全保障や存続を左右することに関してはその国の国民としての共通認識があるのが当然である。健全な与党を育成する意味でも健全な野党の存在は極めて重要である。そのような意味では河野太郎氏の外務大臣としての初舞台での発言や、就任あいさつやASEAN外相拡大会議での発言は極めて常識的で政治家としての成熟を感じさせるものであった。しかし、彼を取り巻く環境は加計学園問題における加戸守行前愛媛県知事の発言を黙殺したマスコミや、そして今回731部隊のドキュメンタリーを企画した人たちがおり、今後も注目する必要がある。