劉暁波氏の犠牲無駄にするな
領土領海侵犯続ける中国
北のミサイルより深刻な問題
アジアの頭痛の種は北朝鮮であり、中国もそれに勝る問題である。北朝鮮のミサイル開発および実験に関しても中国の直接的間接的協力が指摘されている。北朝鮮の度重なるミサイル実験は、ある意味では煙のようなもので火元はむしろ中国であると言えるのではないか。昨年度、中国は他の国々同様、北朝鮮に対して経済制裁を加えていたはずなのに、事実上は貿易が3~4割伸びたという報道がなされている。
6月から7月にかけて中国の国際法および人権を無視した出来事のニュースが毎日紙面を飾っている。日本のメディアは控えめではあるが、最近多少載せる勇気が出てきたような気がする。世界的には2010年にノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏の死去に対する報道が圧倒的であった。劉氏は11年の刑の宣告を受け、がんが体全体を侵すまでろくな治療も受けられず、世界各国の人権運動家などは彼は当局によって殺されたようなものだと言って、中国を批判している。
そもそも彼は天安門事件の時に民主化の運動に参加すると同時に、警察、軍との暴力的衝突を避けようと努め、ガンジーやキング牧師などの非暴力主義を中国の民主化運動に導入した人物である。彼は作家を職業とし、ペンを持って共産党一党独裁の問題点を批判し、人々の自由と人権を当然の権利として認めるよう訴えてきた骨のある活動家であった。彼はチベットなどの独立を支持するには至らなかったが、中国政府による他民族への侵略的暴力的行為、民族滅亡を図る同化政策などに関しても言及した。その勇気と見識は尊敬と称賛に値するものがあった。
彼は2回ほど海外に脱出する機会があったが、彼は自ら国民と共に共産党支配下で戦うことを選択した。しかし彼の最も信頼する同志であった妻の劉霞女史がうつ病などの重病にかかった時はその治療のため、外国へ行くことに同意し、当局に申請したが却下され、夫婦ともども海外で治療を受けられなかった。これに対して国際世論が高まり、各方面から中国政府に圧力が掛けられたが、国際世論を無視する中国はこれに応じることはなかった。
彼の遺骨は海にまかれたと報道されている。本来中国の文化では土葬した後、墓をつくる。だが北京政府は墓などをつくったらそれが民主化運動の聖地化されることを恐れ、あえて灰を海に流したといわれる。中国当局が自分たちの意に反する指導者を殺すことは珍しいことではない。中国のかつて国家元首まで務めた劉少奇の死やパンチェンラマの突然死などについても時の権力者によって抹殺されたという説がある。
劉暁波氏は61歳の尊い命をささげて現代中国の非民主的非人道的な体制の改革を目指したが、それを完成すべき妻の霞女史や良識ある中国国民がその精神を引き継ぎ、戦い続けることで彼の思想や尊い犠牲が生き続けることになろう。世界の民主国家のリーダーをはじめ、自由と平等と民主制度の価値に意味を持たせようとする人々は、無言、無関心で見物せず、中国の圧制に対し声を上げ、手遅れにならないうちに劉暁波氏の妻の海外での治療が受けられるよう北京政府に圧力を掛け続けるべきである。
中国の乱暴ぶりは民主化運動の鎮圧に収まることなく、日本の排他的経済水域を侵し、今度は尖閣諸島からさらに九州方面まで公船が領海侵入している。日本ではそれほど大きな問題として取り上げていないが、中国は陸でも他の国の主権を侵している。世界一国民総幸福度の高いヒマラヤの小国ブータンの領土を侵食している。
6月26日、ブータンの駐インド大使のナムギェル氏は10日ほど前、中国側からブータン領内に入り国境警備隊駐屯地に向かう道路建設現場を発見し、北京側に抗議していることを明らかにした。また条約に基づいて、インド軍が中国軍を追い払うことに中国は逆切れし、インドの不当な介入であり、逆にブータンの主権を無視していると決め付け、もしパキスタンから同様な理屈で第三国、つまり中国政府に要請があれば中国軍がカシミールに侵攻しても良いということになる、という屁理屈をこねていまだに退去する姿勢を見せていない。
この領域においてはインドのシッキム、ブータン、中国(本来のチベット)が接し、極めて地政学的戦略的に重要な地点である。インドの野党は政府に対し強い姿勢で対応することを要求し、国家の主権の確保と安全のためには野党も支持すると断言している。インド野党の指摘ではこの約46日間で中国は120回も中印国境を侵している。しかしインド政府としては現在も国境で中印両軍がにらみ合いを続ける中、緊張を緩和するために努力している。例えば野党の質問に対し、防衛副大臣が侵入に対し不法行為という表現を使うなど一部のマスコミからも弱腰との批判を受けている。
いずれにしても中国は海では日本、フィリピン、ベトナム、台湾などの領海に対し一方的なクレームを付けるほか、領土面ではベトナム、インド、中央アジアの国々との国境を侵して問題を起こしている。北朝鮮のミサイル実験という現象的な問題に注意を払うのももっともだが、その裏に存在するもっと大きく潜在的な原因を忘れてはならない。