劉暁波氏死去は「謀殺」、「マフィア化」する習政権

インサイト2017

評論家 石平

 今年7月13日、中国共産党政権に投獄されていたノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏は末期肝臓がんのために死去したが、その前後から、政府当局ががん治療を意図的に遅らせて劉氏を「謀殺」したのではないか、との疑惑が浮上していた。

石平氏

 劉氏が末期がんであることが診断されたのは今年5月のことだ。だが、北京在住の人権活動家・胡佳氏が「劉氏は刑務所では定期的な検診が行われ、健康状態も良好だと発表されていた」と証言しているから、今年5月以前、当局はずっと、「劉氏の健康状態は良好である」と言いふらしていることが分かった。

 しかし、以前の定期検診では「健康状態は良好だった」はずの劉氏は、今年5月になっていきなり「末期がん」だと診断されてしまったのは一体なぜなのか。一つの可能性としては、当局は以前から劉氏ががんであることを把握しておきながらそれを意図的に隠蔽(いんぺい)して、病状がすでに治療不可能なレベルに悪化してから、初めてそれを公表した、ということである。

 そして末期の肝臓がんと診断された後も、劉氏と親族が高度ながん治療を受けられる北京での治療を希望していたものの、当局に拒否された。その後、劉氏と妻は海外での治療を申請したが、それもまた、中国司法省に拒絶された。つまり中国政府は、多少でも治療条件の良い所へ劉氏を行かせないことで、彼を確実に死に至らしめようとしていたのではないか。

 そして劉氏の末期がんが世界に知らされてから、アメリカとドイツはさっそく医師の派遣を中国政府に打診したが、少なくとも6月30日までに、中国政府はそれを拒否していた。

 中国政府はやっと、米独からの医師派遣を受け入れると表明したのは、7月5日になってからのことだが、米独が医師派遣を打診した6月末から、中国がやっと受け入れを表明した7月5日まで、約1週間の空白が生じていたことになる。病状が急速に悪化している末期がん患者にとって、この1週間の空白あるいは遅れは致命的なものであることはいうまでもない。そのことは、中国政府も当然分かっている。分かっていながら医師の受け入れを遅らせた中国政府の思惑は、劉氏殺害にあった。

 未必の故意による劉氏謀殺の首謀者は当然、共産党総書記の習近平氏その人である。実はこの数年間、収監された人権弁護士や民主化運動の指導者たちを拷問などの卑劣な手段で殺してしまうというのは、習近平政権の常套(じょうとう)手段となっている。

 劉暁波氏の場合、さすがに世界的知名度の高いノーベル賞受賞者に対し、拷問を加えたりするようなことはできないが、彼らは結局、拷問よりもさらに陰険な手段を使って彼を確実に殺した。

 習政権以前の江沢民政権と胡錦濤政権も、共産党独裁政権としては当然、民主運動や人権派に対する弾圧を行っていたが、少なくとも胡錦濤政権までは、国際社会の批判や自らの体面に多少配慮して、獄中での拷問殺人など極端な手段を使うことに躊躇(ちゅうちょ)があった。

 しかし、今の習近平政権はもはや、なりふり構わず国内外の「敵」を潰(つぶ)すのに手段を選ばなくなっている。国内では一斉拘束や獄中殺人などやりたい放題だが、一国両制度の香港まで行って外国籍の書店主を拉致してくるような禁じ手も辞さない。この政権はすでに確実に「マフィア化」してしまい、史上最凶のファシズム政権になっていることは明らかだ。

 こうした中で、この数年間、多くの普通の日本人も訳の分からない理由で中国で拘束される事件が続出しているが、中国共産党政権は、正真正銘のマフィアであることを、われわれ日本国民はもう一度、きちんと認識しておくべきではないのか。