対北新国連制裁決議、迅速な履行がカギ握る

インサイト2017

国連北朝鮮制裁委員会元専門家パネル委員 古川勝久

 国連安全保障理事会が5日に新たな対北朝鮮制裁決議2371号を採択した。これが徹底履行されれば、北の外貨収入大幅削減、非合法目的貨物の調達阻止、制裁対象者の渡航禁止等、「ヒト・モノ・カネ」の取り締まりで北朝鮮に対する強い圧力が期待される。既存の決議の抜け穴を防ぎ、追加的に厳しい制裁を科す措置が盛り込まれている。

古川勝久

 ただ、全ての国連加盟国が迅速に全面履行することが重要だ。さもないと決議は単なる紙上の文字にすぎない。北朝鮮は必ずあらゆる手段を駆使して、すぐに新規制裁措置に適応するようになる。

 新決議では、北朝鮮からの移転が原則禁止とされていた石炭、鉄鉱石について、例外措置が撤廃された。ただ、石炭はコンテナでも頻繁に輸送されている。

 北朝鮮は品目を偽り、天然資源の密輸を継続することは十分考えられる。北朝鮮産の無煙炭は質が高く、需要が高い。特に、中国やマレーシア経由で、日本を含め海外に密輸される可能性には要注意だ。

 中国では、対北交易に依存する中朝国境付近の東北3省の地方経済は近年低迷しており、決議を無視するインセンティブが非常に強い。例えば、中国の長白市は、国境反対側の北朝鮮・恵山市から北朝鮮産鉄鉱石を輸入して精製することで経済が成り立っている。鉄鉱石の輸入全面禁止になれば、市の経済が成り立たなくなるリスクが考えられる。決議違反を徹底的に監視する仕組みが必要だ。

 北朝鮮人労働者を受け入れている国連加盟国は、決議採択日からこれ以上、北朝鮮人労働者に就労許可を与えてはならない。だが、マレーシアなどでは、北朝鮮人労働者は就労ビザを得ずに、不法に滞在して労働作業に従事していたことが確認されている。中国やロシア等、他国でも同様の状況が起きていることが推測できる。

 そもそも不法就労者を取り締まれていない状況で、「就労許可証の追加的付与の禁止」を義務付けても、その実効性が担保できない。次の決議で、北朝鮮人労働者受け入れの全面禁止措置が必要になろう。

 北朝鮮はマネーロンダリング目的で、貿易会社等、普通の企業を装いながら、実質、金融取引を行っている。新決議では「企業」であっても、金融機関と同じ機能を果たしていれば、金融制裁の対象となることを明記した。

 北朝鮮が唯一、外貨取引を公認する金融機関、朝鮮貿易銀行が国連制裁対象となり、世界中の金融市場から排除されることになった。米司法省はすでに、中国・瀋陽所在の中国企業「明正国際貿易」を同銀行のフロント企業として制裁している。

 少なくとも当面の間、北朝鮮は外為業務に著しい支障を来すことが予想される。ただ、北朝鮮はすぐに別の銀行を立てるなど、必ず新制裁措置に適応するようになる。継続的に監視し、朝鮮貿易銀行の後継金融機関を制裁し続けることが必須だ。

 日本政府は中国、東南アジア諸国に対し、国連制裁履行に関する実務者レベルの協議を立ち上げるべきだ。外交当局だけでなく、全関係省庁が参加して、中国・東南アジア諸国に丁寧に決議履行のための実務レベルの能力増強支援策を協議する必要がある。

 日本自身も、既存の決議を含め、完全履行のために国内の法整備を迅速に行わねばならない。

 今回の決議に中国が同意したということは、国連制裁違反の中国企業・金融機関に対する米国等の単独制裁が効いていることを示す。決議違反の団体・個人への単独制裁も決議に基づく義務だ。

 中国や東南アジア等、国を問わず、制裁違反企業・銀行に対する単独制裁を日本は抜本的に強化する必要がある。日米主導で欧州連合も巻き込み、これら団体への「共同制裁」を通じて、対北交易リスクを、直接、中国等の企業・銀行に認識させる必要がある。