「JATトライアングル」構築を

世日クラブ

中国の膨張と日台関係

前参議院議員 江口克彦氏

 世界日報の読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)の定期講演会が2月23日、都内で開催され、前参議院議員の江口克彦氏(PHP研究所前社長)が「中国の膨張と日台関係」をテーマに講演した。江口氏は、中国は、既成事実化を繰り返す「サラミ・スライス戦術」と西に向かう「一帯一路構想」の「両翼戦略」で、領土・領海の拡大路線を進めていると指摘。これに対し、日本列島、台湾、フィリピン、オーストラリアを結ぶ「海の万里の長城」の形成と日台、日米、米台の関係を緊密化させる「JATトライアングル」の構築で対抗する必要性を強調した。(以下は講演要旨)

「両翼戦略」で拡大路線の中国

楽観できぬトランプ外交/常に「片目」で信頼すべき

 安倍晋三首相とトランプ大統領の日米首脳会談で、安倍首相は、非常に賢い外交をしたと思う。欧米諸国をはじめ、ほとんどの国々から、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策や移民問題、とりわけ7カ国入国禁止の大統領令が批判されている、まさに四面楚歌の状況の中、安倍首相だけが、トランプ大統領に好意的対応をした。

江口克彦

 えぐち・かつひこ 1940年生まれ。慶應義塾大学卒。松下幸之助氏の秘書を務め、PHP総合研究所・PHP研究所社長、参議院議員(1期)などを歴任。著書に『松下幸之助はなぜ、松下政経塾をつくったのか』『国民を元気にする国のかたち』など多数。

 そういう孤立したトランプ大統領を、安倍首相が巧みに利用し、日米関係を強化したという意味で、対米外交は大成功であった。あれほど日本に対して、為替操作をしている、沖縄基地の米軍に対してもっと駐留経費を負担せよ、そうでなければ引き揚げるなどと言っていたにもかかわらず、経済問題は、2国間の貿易や為替などの対話の枠組みを作り、詳細は今後、麻生副総理とペンス副大統領の間で話し合うことになり、米軍駐留費用の負担の問題は、出なかった。

 それどころか、尖閣列島は、日米安保条約第5条の適用範囲内ということが確認され、共同声明の冒頭では「核および通常戦力の双方による、あらゆる種類の米国の軍事力を使った日本の防衛に対する米国のコミットメントは揺るぎない」と言っている。恐らく「核の使用」に言及したのは、日米共同声明で初めてではないかと思う。

 今回の日米首脳会談は、今のところ、安倍首相の思惑通りだったと思う。一応、密接な信頼関係が構築されたと言ってもいいのではないか。

 しかし、トランプ大統領が、安倍首相との信頼関係を保ち、日本をいついかなる場合も、守り抜くかと言えば、必ずしも楽観することはできない。今回の日米外交は成功したが、これから日米関係は盤石だなどと思わない方がいい。「信頼して信頼せず、信頼せずして信頼する」という距離感で、これからのトランプ大統領と付き合っていくべきだ。

 現に、昨年の12月2日、トランプ氏は、台湾の蔡英文総統と異例の電話会談をして、「一つの中国の原則は理解しているが、その原則にとらわれる必要はない」と発言したが、2月9日、安倍首相がトランプ大統領の会談のため飛行機に乗って飛んでいるまさにその時に、トランプ大統領は中国の習近平国家主席との電話会談で、「中国と台湾が“一つの中国”であるとの原則を尊重する」と発言した。

 トランプ大統領の政治判断の物差しは「損得」だ。「損か得か」で判断する「損得政治」と言える。トランプ大統領は、中国の南シナ海での軍事的覇権を批判し、中国を「最大の敵」と言った。しかし、トランプ大統領が南シナ海を中国の支配から防衛するというのも、ただ、元安から元高に移行させ、中国への輸出を拡大させたいだけ、ということもあり得る。それを中国が約束し実行すれば、台湾の時と同じように、あっさりと「南シナ海を一つの国の支配から防衛する」ことをフェイドアウトさせるかもしれない。

 安倍首相がトランプ大統領を信頼することは重要だが、「両目」でということは危険だ。常に「片目」で「トランプは信頼できない」ということも、冷静に準備しておく必要がある。蔡総統も、米国との関係を維持しながら、同時に、日本という保険をかける戦略をとり、日台関係を強化しなければならないだろう。それがなければ、いざという時、孤立し、文字通り「一つの中国」に飲み込まれることにもなる。

 中国は、もともと、「中華思想というDNA」を持ち続けている。異常とも思われる、領土拡大、勢力拡大がその表れと言えるだろう。そのやり方、戦略は、実に巧妙かつ狡猾(こうかつ)だ。その一つが、中国の東に向けられている「サラミ・スライス戦術」だ。サラミソーセージを相手が気付かない程度に薄切りにしていくように、既成事実化を繰り返し、目的を達成する戦術だ。

 問題は、日本がそれを認識しているかどうかだ。例えば、昨年8月3日から13日の11日間で尖閣諸島の周辺に中国公船や漁船200~300隻が排他的経済水域(EEZ)に入ってきた。それをマスコミは大きく報道した。しかし、その扱いが徐々に小さくなり、10日も経(た)つと、ついには10分の1程度になってしまった。中国が今後もこういうことを繰り返すということを知っていなければならない。

 中国の異常な領土拡大への戦略は、西に向かう巨大経済圏構想にも見て取ることができる。それが「一帯一路構想」だ。「一帯」とは、中国、中央アジア、ロシア、ヨーロッパを通る陸の道、「一路」とは、インド洋、地中海、ヨーロッパを通る海の道だ。

 この「一帯一路構想」は、2013年に習近平氏が提唱した。この沿線国に莫大(ばくだい)な投資を行い、新たな経済圏の形成を目指すということだ。影響力を強化し、中国勢力圏にしようという野望が見て取れる。

 究極の中国の世界戦略は、全世界を属国にしたいということだろう。そのために「サラミ・スライス戦術」と「一帯一路構想」を二つ翼とする「両翼戦略」で領土・領海の拡大路線を着々と進めている。

 この「サラミ・スライス戦術」の最終目的は、米国だが、その前に中国にとって邪魔になるのが、防波堤のように横たわる日本と台湾だ。

 中国は、1996年の台湾総統選挙に、ミサイルで台湾を脅し、脅迫したが、当時の李登輝総統に阻止された。一方で、日本は、日米安保で手が出せない。だから、中国が取っているのが、「サラミ・スライス戦術」だ。気がついてみれば、台湾は中国に飲み込まれ、日本も手も足も出ない、中国の「属国並みの国」にしてしまう。

 中国は、台湾企業を優遇して、中国シンパをつくっていく。あるいは、両岸条例により、制限されているとはいえ、裏から台湾の土地を買い漁(あさ)る。気がついてみれば、台湾は中国人に占拠されているということになるかもしれない。台湾の経済人は、自分の会社の利益のためには、台湾を売るがごとく、その中国の戦術に乗ってしまっている。

 また、日本に対しては、強大な軍事力を背景に、尖閣諸島だけでなく、石垣島、宮古島、さらには沖縄本島をも中国の領土にしたいという思いだろう。

 それを理解しないトランプ大統領が、中国との「取引」で、沖縄海兵隊の引き揚げ、台湾へのサポート放棄を本気に考えれば、紛れもなく自殺行為、あるいは暴漢を自分の庭に入れることになるだろう。

 トランプ大統領が、取るべき東アジア戦略は、中国の太平洋進出を阻止するために、日本列島、台湾、フィリピン、オーストラリアを結ぶ「海の万里の長城」を形成することに最大の協力、努力をすること。そして、米国が太平洋で中国と直接対決を回避するためにも、日台、日米、米台との関係を緊密化させる「JATトライアングル」の構築を考えなければならない。

 同時に、日本と台湾も、今まで以上に連携を強化し、台湾は日本カードを、日本は台湾カードを使いながら、対中外交、東アジア外交、世界外交を推し進め、お互いの平和と安定と発展を巧みに考えるべきだ。