「架空」の疑惑で五里霧中 混迷続く仏大統領選
今春行われるフランス大統領選の中道右派候補、フィヨン元仏首相の妻の架空給与疑惑で司法捜査が開始され、中道右派陣営は大揺れ状態だ。一方、世論調査でトップを走ってきた右派・国民戦線のルペン候補も秘書の架空給与疑惑が浮上している。大統領選はまったく予想できない状況に陥っている。
(パリ・安倍雅信)
中道右派・フィヨン候補、妻関与めぐり支持低下
右派・ルペン候補、スタッフに不正給与か
最大野党の中道右派・共和党は、昨年11月末の予備選で、フィヨン元仏首相を正式の公認候補に選び、不人気な左派政権に代わり、次期大統領の最有力候補と目されてきた。伝統的なカトリック保守層からの根強い信頼もあり、勢いに乗る右派・国民戦線のマリーヌ・ルペン候補の勝利を唯一阻止できる候補者とされた。
12月の時点では第1回投票で、ルペン、フィヨン両候補が拮抗(きっこう)し、そこに人気上昇中の独立候補のエマニュエル・マクロン前経済相がどう食い込むかが注目されていた。ところがフィヨン氏の妻、ペネロプ夫人の架空雇用疑惑が浮上し、2月末には検察のフィヨン氏本人への予審手続きが開始された。
フィヨン氏は当初、候補を降りるように迫る中道右派の政治家や支持者に対して、司法を非難し、予審手続きが開始されなければ、選挙戦から絶対に撤退しないと述べていた。しかし、予審手続きに付されても撤退せず、3月4日の時点でも100人以上の議員がフィヨン氏支持から離脱した。
4月の第1回投票が迫る中、中道右派陣営ではフィヨン氏では選挙戦を戦えないとの声が日増しに強まり、選挙キャンペーンの主要メンバーの離脱が相次ぎ、選挙広報責任者のティエリー・ソレール氏も3日、辞任した。
一方、フィヨン氏撤退を視野に、共和党予備選で2位につけたジュペ元仏首相擁立の動きが加速している。ジュペ氏本人は候補者になることはあり得ないと述べていたが、現時点では周囲からの強い要望があれば出馬する構えを見せている。
そこでジュペ氏擁立でフィヨン氏との仲介役としてサルコジ前仏大統領が動いている。予備選でフィヨン氏に敗北したサルコジ氏は、共和党内の重鎮として、ルペン候補当選阻止のため、党と国に貢献したいという思惑もあるが慎重に動いていると伝えられる。
ジュペ氏の支持者たちは候補者に必要な500人の推薦人確保のために数日前から動きを加速しており、党内でも中道右派が今の難局を乗り切り、大統領選を勝利に導くのはジュペ氏しかいないとの声が日に日に高まっている。長年、ボルドー市長でもあるジュペ氏は、現在71歳で共和党内の重鎮であり、首相や外相、国防相を歴任した人物だ。
ジュペ氏は、共和党の前身で保守中道諸政党が糾合して結成した国民運動連合の初代総裁を務め、2007年の大統領選ではシラク大統領の後任と目された時期もあった。そのためジュペ氏が正式候補者になれば、全党がまとまりやすい状況でもある。
フランス2の報道によれば、3月初めの時点で、第1回投票では独立候補のマクロン氏がトップ、2位がルペン候補、3位がフィヨン候補との予想がある一方、ジュペ氏が候補者となった場合は、ジュペ氏が26・5%の得票でトップに立ち、2位がマクロン氏、3位がルペン氏との予想も伝えている。
ただ、フランスのマスコミは2002年の大統領選で、ルペン候補の父親、ジャンマリ・ルペン氏が第2回投票に残った時、一斉にルペン候補のネガティブキャンペーンを展開し、国民戦線の大統領誕生阻止に回った経緯がある。
そのため、今回も勢いに乗る娘のルペン候補へのマスコミの警戒感は強い。
ルペン党首は、欧州議会の予算から自身のスタッフに不正に給与を支給させた背任容疑の疑惑で司法の呼び出しを受けている。フィヨン氏の抱える疑惑に比べれば軽度と言えるが、マスコミは積極的に疑惑報道を行っている。
一方、支持を拡大させているマクロン候補が3月2日、政策を明らかにした。それによると自らポテンシャルの高い「未来の経済」と呼ぶ分野での投資拡大および、雇用促進に向けた投資、官僚制度の見直しなどを掲げている。特に主要優先課題として教育、労働、経済近代化、安全保障、民主主義の刷新、国際的な関与の6項目を挙げている。
新しい中道をめざすマクロン氏に対しては、フランスの中道の代名詞と言われたフランソワ・バイル氏が支持を表明し、勢いづいている。だが、年齢の若さや経験不足などへの懸念の声も聞かれる。
フランスの大統領選まで50日を切り、目が離せない。