日米首脳蜜月、アジアは歓迎

ペマ・ギャルポ桐蔭横浜大学法学部教授 ペマ・ギャルポ

中国の低姿勢は一時的
日本は防衛費「1%」見直しを

 安倍晋三首相とトランプ米大統領の会談は両国の同盟を一層強化し、両首脳の関係もさらに深化する結果を内外に示すことができた。ティラーソン米国務長官と岸田文雄外務大臣の会談も両首脳の合意をさらに具体化する意味で、東および南シナ海への中国の一方的な進出や北朝鮮の核ミサイル開発などに対しても両国の認識を再確認するという成果を挙げた。

 アジア太平洋地域の安定と繁栄に日米が主導的な役割を果たすことや、中国の公船が領海侵入を繰り返す尖閣諸島の情勢やその他の問題についても幅広く協議し合意を得た。特にアメリカが尖閣諸島に対する立場をより鮮明化したことに関しては、日本側の努力が実ったということになる。

 日米首脳会談前に中国は開発中の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、東風(DF)5Cの発射実験などを実施し第1列島線上の米軍基地や日本本土、台湾などを狙う新型準中距離弾道ミサイルDF16の配備、訓練などを公開し、日米を牽制(けんせい)するような姿勢を示したが、これはかえって両国の関係の重要性を認識させる結果になったのではないか。今までのオバマ政権の生ぬるい姿勢に対し、トランプ政権は中国が理解しやすい強硬な姿勢を示していることは、正しいことであり評価に値する。

 中国政府は東アジアおよび東南アジアにおける自由陣営の結束を崩すための積極的な外交を展開し、オーストラリア、マレーシアなどを巻き込んで日米の東アジアにおける絆を破壊しようとしたが、ある程度の成果は得たものの決定的な成果は得ていない。

 日米両首脳の蜜月ぶりはアジアの多くの国々に安心感を与えたと言えよう。東京在住のアジア各国の外交官たちも安倍首相の外交力を評価し、日米の同盟のさらなる強化を歓迎している様相である。米国政府はタイ、フィリピンなどに対しても今後さらに関係強化を促す姿勢を示している。

 トランプ新政権はいろいろ話題を提供し一見混迷しているようにも見えるが政権誕生1カ月目にしては、少なくともアジア太平洋地区においては有言実行ぶりを発揮している。フリン国家安全担当補佐官の辞任劇はアメリカ政権のみならず、日本などにとっても残念なことではあったが後任のH・Rマクマスター陸軍中将のバックグラウンドを見ても、トランプ大統領の今までの安全保障に関する後退はなさそうである。マクマスター氏は少なくとも中国のアジア太平洋における脅威に対しては、大統領と認識を一致している経験豊かな軍人である。

 日本の大新聞やテレビはトランプ大統領側が中国に対し方針に柔軟性を示したかのように報道しているが、実際はむしろ中国側が彼らの理解者たちを介して低姿勢に出始めた。中国の王毅外相は訪問先のオーストラリアで日米の首脳会談の直前に「わが中華人民共和国は誰かに代わってリーダー(世界の)になろうという野心も無ければ能力も無い。われわれは中国の経済発展に集中している」とメディアなどに語り、近年示していた鼻息荒い姿勢とは裏腹な様子を示した。

 中国の友人のキッシンジャー博士とオーストラリアのビショップ外務大臣たちも「米中の衝突は両国にとって無益である」とコメントし、米中の関係改善の重要性を説いている。だがこれはあくまでも現段階における米国の強い姿勢に対する一時的な策にすぎず、「一帯一路」の青写真に基づく「大中華」の野望を放棄しているのではないことを忘れてはならない。むしろ今後、日米同盟を軸に朝鮮半島の安全保障と台湾の安全保障を確保することが一大事と考えるべきである。

 北朝鮮の血なまぐさい異母兄弟の暗殺や、彼らの言う奇跡的発展による核ミサイルの発射の成功などを見ても、東アジアの安全保障に関してはより一層緊張することも考慮し、特に北朝鮮に対し最も影響力のある中国に対してプレッシャーをかけ続けることが最も有効であるはずである。

 今回の北朝鮮のミサイル発射に対しては中国も一応石炭の輸入などを停止することで国際社会と同調するような姿勢を示しているが、本気で北朝鮮の独裁者に対し有効な働きをしてはいない。例えば北朝鮮の現状から見て、彼らの言う6カ月で完成した奇跡的成功のミサイル発射を果たして鵜呑(うの)みにし、彼らの自力度を信用できるか甚だ疑わしい。

 今回の日米首脳会談において具体的な負担金増の要求が無かったことに対して、日本側は安堵(あんど)しているように見受けられるが、トランプ政権の包括的防衛政策を見る限り、今後何らかの形でアジアの平和と安全を守る政策を強硬に実施するため防衛費全体の増額を要求してくることを想定し、日本の現在の防衛費を考え直す時機に来ているのではないだろうか。国内総生産(GDP)の1%以下という自ら課せられた規制は、今の世界情勢に十分対応できるか検討すべき重要課題であるように思う。