自主防災組織の活性化図れ
拓殖大学地方政治行政研究所附属防災教育研究センター副センター長 濱口 和久
急務のリーダー養成
若者を取り込む工夫も必要
今年の3月11日で、1万8000人を超える死者・行方不明者を出した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)から丸6年となるが、被災地はいまだに復興の途上にあり、震災の爪痕が至る所に残っている。
東日本大震災以降も、日本列島は大雨、台風、地震により大きな災害に見舞われてきた。その中でも昨年4月の熊本地震は記憶に新しいところだ。
日本人は日本列島で暮らす限り、災害から逃れることはできない。自分たちの住む地域は、自分たちで守るという地域防災力の強化が必要となってくる。
地域防災力の担い手の一つが自主防災組織(主に町内会や自治会単位で結成される住民の任意団体)である。昭和34(1959)年9月に死者・行方不明者5098人を出した伊勢湾台風を契機として、昭和36年11月に災害対策基本法が制定された。その中で「住民の隣保協働の精神に基づく自発的な防災組織(自主防災組織)の充実を図り」うんぬんと、公的文書の中で初めて自主防災組織という言葉が使われるようになった。
平成7(1995)年1月17日に起きた兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)で地域防災力の重要性が再認識されると、災害対策基本法が改正され、この時から自主防災組織の育成が、行政の責務の一部として明記される。その結果、各自治体は、自主防災リーダー養成のための研修や訓練などを積極的に開催するようになり、全国的に自主防災組織の結成が促進された。
内閣府の資料によると、平成26年4月1日現在、都道府県別自主防災組織率は80%に達している。ところが、自主防災組織は全国的に次のような共通の課題を抱えている。①防災リーダーの不足②活動のマンネリ化・形骸化③組織の高齢化④組織間の取り組みの格差⑤防災活動に対する住民意識の不足⑥その他。
これらの問題を解消するため、自治体の中には公費(税金)を使い自主防災組織の役員などに、阪神・淡路大震災の教訓からスタートした民間資格の防災士を積極的に取得させているところもある。だが、「現状では自治体が期待するだけの成果があまり出ていない」という声が一部の自治体関係者の中にあり、新たな防災リーダー養成の研修を始めた自治体もある。
組織の高齢化も深刻だ。自主防災組織への若者の参加は皆無に等しい。自主防災組織の活性化のためにも、若者が参加しやすい環境をつくり、体験型の防災イベントなどの開催を通じて、若者を取り込む工夫が必要だろう。
読売新聞(平成26年5月26日付)に「自主防災組織知っている? 『組織率8割』というけれど…」という見出しで、自主防災組織の実態が紹介されている。
組織率が100%とされる東京都練馬区で暮らす男性会社員(32)は「自主防災組織なんて、聞いたことがない」。組織率100%の荒川区では、例えば、970世帯、1740人が暮らす真土町会では、訓練参加者は毎回20~30人しかいない。千葉県山武市では、市内38組織を調べたところ、回答のあった31組織中、23組織が「何をしていいか分からない」などの理由で活動していなかった。
どんなに自主防災組織率が向上しても、中身が伴わなければ、単なる数字遊びでしかなく、災害時に何の役にも立たない組織となるだけである。
福住町町内会(宮城県仙台市宮城野区)の取り組みは、参考になる自主防災組織の一つだ。平成15年に「できるだけ行政に頼らず、初期段階にかけては自分たちで乗り切る」ということを念頭に、災害時の役割分担や緊急時の連絡網を盛り込んだ防災マニュアルを作成。訓練内容を毎年変え、参加者にとって有益となる防災訓練を行ってきた。ライフラインの停止を想定し、避難生活に必要な発電機、プロパンガス、暖房器具、食料、飲料水等を集会所に備蓄し、行政に頼らない備えを構築してきた。そのため地震発生の夜に、住民が集会所に集まってきた時も、自主防災組織の機能がうまく働いた(消防庁国民保護・防災部防災課「東日本大震災における自主防災組織の活動事例集」より)。
平成11年から始まった平成の大合併により、同年4月時点で3229あった市町村数は、平成28年10月10日時点で1718となり、ほぼ半減した。
行政の効率化を目指して行われた平成の大合併ではあったが、結果的に合併によって面積が拡大したことが、防災力の低下を招いている自治体も数多い。そのため東日本大震災では被害が拡大した自治体もある。
さらに東日本大震災では、合併によって、いったん災害が起きれば、住民に最も身近な政府である市町村が機能不全に陥ることが証明された。そうした場合、消防団を除けば、発災直後に頼りになるのは福住町町内会のように、自分たちが住む地域の自主防災組織だけとなる。
自主防災組織は、災害が起きた時に公的支援(公助)が機能するまでの間、地域住民が協力し助け合うための自助・近助・共助の組織であり、地域防災力の最後の砦(とりで)としての役割が期待されているのだ。
(はまぐち・かずひさ)