進む中国の空母艦隊建設
「遼寧」で経験・資料得る
日本は対艦ミサイルの強化を
昨年12月下旬から今年1月中旬にかけて、中国空母「遼寧」が随伴艦8隻を率い、宮古水道から外洋に出て台湾沖を南下、バシー海峡を通り南シナ海の海南島方面へ航行、帰りは台湾海峡を経て青島基地に戻ったことが一斉に報道された。折から米国に滞在中の蔡総統の活動を牽制(けんせい)するもの等の見方が報道されたが、中国の空母部隊建設が一歩進んだことは事実であり、冷静に評価し対策を講ずることが求められることから、所見を披露したい。
まず空母の種類であるが、米国が保有する10隻(間もなくジェラルド・フォードが就役し11隻)の空母はいずれも10万㌧級、原子力推進、全長飛行甲板、カタパルト発進等の能力を持つ、いわゆる「正規空母」である。搭載機数は、戦闘機・攻撃機・早期警戒機・ヘリ等90機とされる。その他の国、露・英・仏・伊・印が保有する空母は5万㌧クラスで、中型空母・軽空母と称され、能力も低く、スキージャンプ型の甲板を保有するものが多い(仏を除く)。代表的なのが、間もなく就役する英国「クイーン・エリザベス」あるいはロシア「アドミラル・クズネツォフ」である。
中国の遼寧は、もともとクズネツォフの同型艦を復元再生したものであり、その能力は米空母に比べ数段低いと見るべきである。ちなみに搭載戦闘機数は20機を超える程度である。さらに中国も公言しているごとく、遼寧は訓練艦であり実戦艦ではない。空母を持ったことの無かった海軍が、本格的な空母運用を開始するための訓練艦であり、各種の運用・装備・通信等に係る経験・資料獲得のためのプロジェクトである。今まで中国は新規装備品の運用に、極めて慎重に進めていく傾向にあり、空母に関しても着実に歩を進める過程にあると見るべきである。おそらく今回の台湾を周回した行動を通じて、小規模編成ながら、艦隊運用、指揮通信、データ通信等多くの必要事項を外洋レベルで訓練し、それなりの教訓を得たと考えてよいだろう。
半面、課題も多く確認されたと考えられる。おそらく課題の第一は艦載戦闘機であろう。遼寧の搭載機は、国産J15であるが、これはロシアの艦載機SU33の試作型の1機をウクライナから購入、コピー生産したものである。問題はエンジンにありSU27購入時に同機用に購入した「AL31F」を転用していると考えられている。当該エンジンはコピー生産されている(WS10)が所望の性能を発揮できていない。さらに改良開発を進めているが、はかばかしくないとするのが国際軍事的見方である。
他方かねて交渉中であったSU35(SU27発展型)の輸入については、ようやく交渉成立、最初の4機が年末引き渡されたもようである(Wikipedia)。これにより、中国は新型エンジン「AL41」を手に入れることとなった。その他、カタパルト技術・着陸拘束装置技術についても確保されていることが明らかにされている。
これらの諸条件を踏まえて、2隻の新造空母の建設が進んでいる。衛星写真等から2隻目は従来通りのスキージャンプ型、3隻目は全長型の電磁カタパルト型ではないかと推測されている。さらに2隻の原子力空母の建造が取り沙汰されており、ウクライナから入手したウリヤノフスク級空母(ソ連崩壊により建造中止)の設計図が基になると言われている。
こうして見ると、中国は「一帯一路」に代表される世界的な進出をもくろむ長期戦略のもと、海軍力のグローバル化を目指し、歩を進めていると言える。そしてその中核的なプロジェクトとして空母艦隊建設が、課題を抱えつつも着実に進んでいると見なければならない。
このような状況下、我が国の対応について考えたい。空母は基本的には航空攻撃力を必要な海域に派遣して、紛争あるいは係争相手国に軍事的圧迫あるいは恫喝(どうかつ)を加え、軍事的紛争に発展した場合戦闘力を発揮するのが目的で軍事的には極めて大きな存在である。半面、本国を離れた遠洋において行動する脆弱(ぜいじゃく)性を併せ持ち、艦隊の保全は大きな課題である。我が国のように海外において軍事力を発揮する必要のない国の取るべき方策は、「空母には空母を」といった対抗的な対応ではなく、空母の脆弱性を突く対抗策が適切であろうと考えている。
現在の兵器体系から見ると艦艇の弱みは対艦誘導弾ミサイル攻撃にある。フォークランド戦争における「エグゾセの1発」以来、航空機による本格的攻撃の例はないが、各国とも対艦ミサイルの装備には力を入れているところである。我が国においても、空対艦、地対艦、艦隊艦ミサイルを開発、陸海空自衛隊において装備運用されている。これらはいずれも「本土防衛」的見地から射程の短いのが特徴である。中国の空母艦隊保有という現実に対しては、対艦ミサイル装備の射程を300カイリ以上に延伸し、領土近海へのアクセスを拒否する方策を早期に確立していくことが効果的である。
かつて離島防衛の観点から遠距離からの対艦ミサイル攻撃を検討した経緯があるが、対空母という視点から新たなる検討が必要であることを強調したい。この場合、ミサイルの射程延伸は、艦艇動態情報の常時掌握、ネットワークの最大活用といった要素の構築が必要であり、統合的な取り組みが必要であることは言うまでもない。
(すぎやま・しげる)