看過できぬ中国の宇宙開発
狙いは宇宙の戦力化に
戦略的領域を多面的に拡大
急台頭する中国は海洋進出を拡大し、南シナ海や東シナ海で関係国との間に緊張や摩擦を巻き起こしている。特に南シナ海ではハーグの仲裁裁判所の裁定に反発するなど国際社会と確執を強め、さらに東シナ海では大量の漁船団をわが領海に侵入させるなど挑戦的な行動を反復していた。
しかし中国は同時に宇宙開発も進めており、現に10月17日に有人衛星・神舟11号を打ち上げ、9月に打ち上げたスペースラブ・天宮2号と400キロ上空で19日にドッキングに成功した。これは、中国が目指している宇宙ステーション構築に向けて大きな一歩を踏み出したと評価されている。このように海洋やサイバー空間のみならず宇宙空間にも領域拡大を進めている中国の実態を看過してはなるまい。
このように多面的な中国の戦略的領域の拡大については、既に軍の機関紙『解放軍報』(1987年4月3日付)が「合理的三次元戦略的国境を追及する」なる論文で予言していた。同論文は戦略国境の拡大は軍事力によるとした上で、軍の近代化を急ぐとともに新しい戦略空間として海洋、宇宙、深海への拡大の必要性を説いていた。その後の中国は経済高度成長に伴い対外的な拡大方向を、この論旨に沿って進めており、今日の海洋進出で顕著に表している。
今次、神舟11号の打ち上げもその一環で、空軍パイロット出身の2人の飛行士は天宮2号に移り、30日間滞在して宇宙ステーション本体の建設に取り掛かり、2022年までの中国の宇宙ステーション構築を目指している。
これまで中国の宇宙開発の目的は宇宙空間の探査、平和利用、経済建設、国防、科学技術発展などと表明されてきた。実際、中国は多面的に宇宙開発を進めており、宇宙ステーション計画以外にも月探査衛星「嫦娥3号」の月面着陸などの成果を挙げ、国威を発揚すると共に習近平主席が唱える「中華の夢」を支えてきた。
また商用衛星打ち上げ事業へも1986年に参入宣言をし、90年の香港「アジアサット1号(通信衛星)」打ち上げ受注以降はブラジルの資源探査衛星など国益を懸けて多くの商用衛星を打ち上げてきた。しかし本音では宇宙の戦力化が主な狙いであり、圧倒的な米国軍事力への対抗手段や国家威信を高めるなど安全保障と外交力補強に狙いを当ててきた。
中国の宇宙開発の推進は「両弾一星(原・水爆と衛星)」計画として55年から核・ミサイル開発と共に国家的プロジェクトとして進められてきた。現に今次打ち上げの神舟11号の実験も国防科学技術工業局が担当し、総指揮は解放軍装備発展部長(旧総装備部長)の張又侠上将が執り、打ち上げ作業もロケット軍部隊によって担われている。
その開発体制は大規模で、国務院・科学技術部国家航天局から軍が管理する酒泉衛星発射センターなど5基地が動員され、重要なプロジェクトとして中国ロケット技術研究院(CALT)など国有企業29社・70万人が関わっているといわれている。その結果、今日宇宙で活動中の中国の衛星は偵察・通信・気象・測位など軍民合わせて6種類の衛星が35個に及んでおり、今後とも米国のリバランス戦略との確執が強まる中で、中国は宇宙の軍事利用を強力に進めよう。
宇宙ステーションについては、今日稼働中の米露日カナダなどの共同出資による国際宇宙ステーション(ISS)があるが、中国はISSからの共同開発への誘いを断って独自に開発を進めている。中国の宇宙ステーションは完成時には有人宇宙船、実験船、物資補給の貨物補給船などの宇宙基地化の構想で進められている。そこには複数の飛行士が長期間滞在し、実験や気象観測、資源探査など平和利用がうたわれているが、監視・偵察など軍事利用も当然、進められよう。
現にこれまでも中国の宇宙戦力化は2007年1月に自国の用済み後の気象衛星風雲2Cをミサイルで撃破するなど攻撃兵器(ASAT)能力を見せつけてきた。また開発を通じて例えば、重量14トンに及ぶ天宮2号の打ち上げで12個の補助ロケットエンジンを付けた長征2号F2の開発もミサイルの長射程化に応用されよう。また中国科学院の有人衛星開発責任者は「神舟号搭載の高解像度のカメラは主として軍事目的に使用される」と述べたように偵察、監視、通信、測位(GPS)などの進展に加えてミサイルの命中精度を向上させている。
中国は経済成長が鈍化する「新常態」を迎えて、共産党独裁政権への求心力強化のためにナショナリズムを高揚できる戦略領域の拡大の手を緩めることはなかろう。当面は海洋進出が目立っているが、習近平主導の軍事改革で顕著になったロケット軍の強化や宇宙・サイバー空間を担う戦略支援部隊の創設などから、今後は宇宙を舞台とする国際軋轢(あつれき)が激化していこう。
特に中国の宇宙ステーション構築にはなお課題が残るとしても、完成した暁には、ISSの運用が24年で期限を迎えた後の宇宙は中国の独壇場となって、中国は世界の安全保障環境に大きな影響を及ぼすことになろう。
わが国も先に気象衛星・ひまわり9号の打ち上げに成功したが、宇宙基本法に安全保障を加味して21世紀のわが国の平和と発展を懸けた戦略で力強い宇宙開発の推進が重要になる。
(かやはら・いくお)






