北核実験で習主席正念場に
G20会議の成功台無し
問われる制裁手抜きの責任
9日に北朝鮮は本年初に次ぐ第5回目の核実験を強行して世界に衝撃を与えた。核実験は、10キロトンと過去最大規模で「核弾頭」爆発実験の成功が初めて発表された。これまでの度重なる核実験や21発に及ぶミサイル実験があり、さらに大気圏への再突入に耐えるよう弾頭表面の強度実験などの積み重ねを見る時、北朝鮮の核能力は新たな段階に突入したとみられている。次に続く核・ミサイル実験を阻止するためにも、これまで北朝鮮に核放棄を促す忍耐戦略や国際的な取り組みの見直しが迫られるのではないか。
ここまで北朝鮮の核ミサイル開発が進展したのは中国の支援に負うところが大きい。実際、中国は朝鮮半島の非核化を唱えながらも、北朝鮮の体制崩壊を防ぐ狙いからこれまで制裁を骨抜きにしてきた経緯がある。このように制裁など北朝鮮の抑制措置を自国の都合で手抜きしてきた中国の責任は重い。
先の主要20カ国(G20)サミットを一応、成功裏に終えて、第2期習近平政権の構築に向けて次の政治ステージに移行する矢先の北朝鮮の核実験は中国の政治日程も狂わせた。アジアの安全保障環境を揺るがす北朝鮮の核実験の実態とそれへの対応は改めて専門的な検討を深めるべき重要課題であるが、本稿では核実験成功の因果共に関わりの深い中国の事情に視点を当てて問題への取り組みを検討してみたい。
周知のように中国は来秋の第19回党大会に向けて内政の季節を迎えており、外交などの政治日程も組み立てられてきた。その目玉に中国が主催国となったG20首脳会議があり、中国は幾多の難条件を克服して無難に終了し、国威を発揚できた。南シナ海問題でハーグ仲裁裁定をめぐる国際的な角逐や鉄鋼など過剰生産品のダンピング輸出などへの非難、さらに北朝鮮が挑発的なミサイル発射を続けるなど四面楚歌の中でG20は中国にとって国家威信を懸けた国際イベントであった。それが一応成功裏に終了した矢先の北朝鮮の核実験であった。
実際、G20では世界経済が山のようなリスクを抱える折から、各国が財政、金融政策、経済構造改革など政策を総動員することで一致し、協調姿勢がアピールされた。しかしG20前の7月にハーグの仲裁裁判所の出した南シナ海問題では、中国がこれまで主張してきた「九段線」の管轄権や埋め立て島にまつわる権限などが否定され、これに反発する中国と国際社会の間で「法に従う解決」をめぐって軋轢(あつれき)が強まっていた。それでも中国は東アジアでの海洋問題をG20サミットの議題から外して、今後に問題を残しながらも、G20会議を締めくくった。
G20成功に向けて中国は風光明媚な西湖のほとり古都・杭州を会議場所に選定するとともに国際的な諸問題では自制し、鉄鋼業「ゾンビ企業」化の実態も容認するなど譲歩を重ねてきた。それでもG20では過剰生産や為替政策などをめぐる各国の温度差は残り、G20が目指す成長軌道に乗せるにはなお多くの解決すべき問題を残しており、議長国として課題を背負ったことになる。
今後の中国は来秋の党大会開催に向けて内政中心の時期を迎えて権力抗争が活発化し、同時に外交的には強硬姿勢が続くことになろう。その背景には、これまで1期目の習政権の成績考課があり、内政に経済成長の鈍化、環境悪化、メデイア規制や人権弁護士の拘束など批判の対象となる多く難問を抱えている。「蝿(はえ)も、虎も同時に叩(たた)く」方針の徹底した反腐敗闘争は成果として習政権への求心力を強めたが、汚職問題収束の目途(めど)は立っていない。さらに長老・江沢民の腹心・周永康元政治局常務委員や胡錦濤の懐刀・令計画政治局員にまで大虎退治は進んだが、今夏の要人の避暑地・北戴河での非公式会談では長老の反発で「習近平核心論」や同氏への権力集中に歯止めが掛けられたもようである。また多額の金や機密を持って国外に逃走した幹部の、キツネ狩りといわれる追跡逮捕では2000人を逮捕しながら、政権の機密資料を携行して米国に渡った令政策氏など大物には手を付けられていない。
これら内政課題に加えて今次北朝鮮の核実験は中国外交を窮地に追い込んだ。北朝鮮問題には、早速国連安保理が対応に着手しているが、安保理常任理事国で、かつて6者協議の議長国を担ってきた中国の責任は重い。急浮上した北朝鮮の核実験問題は、中国のメンツをつぶす以上に中国自らの脅威になりかねず、今回こそ中国は北朝鮮に対して厳しく臨むことが求められる。
これまで中国は北朝鮮の核問題を米中角逐のカードに位置付けて、韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)配備に反対するために北朝鮮への制裁を加減してきた。今次、北朝鮮が核実験を強行した背景には、南シナ海をめぐる米中角逐が激化する中で、中国は北朝鮮を守るとの確信があったからではないか。その観点からも今後の国連による北朝鮮制裁の成否の鍵は中国にあり、実効ある制裁に不可欠な中国の対応が注目される。
先のG20サミットで中国は国際協調路線を主導・強調したが、現実に北朝鮮によってかき乱される世界平和やアジアの安定に中国はどのように責任ある国際協調姿勢を取るのか、国内向けに弱腰を見せられない制約の中で習主席は厳しい正念場を迎えている。
(かやはら・いくお)