中国、尖閣発端に対米戦争も 米ランド研究所が「米中戦争」研究

 安全保障問題では米国最大の民間研究所であるランド研究所がこのほど、「米中戦争」をテーマにした報告書をまとめた。2025年までの近未来を見越した米陸軍からの委託研究だった。リポートでは米中戦争の発火点に関し、尖閣を一例として挙げている。(池永達夫)

長期戦に備え日本の役割強調

「核戦争避ける」には疑問符

 副題は「考えられないことを考える」とあるが、安全保障の要点は通常リスクだけでなく、万が一にも備えることにある。この点において、米陸軍がランド研究所に委託したテーマである「米中戦争」は、安全保障の空白部分を埋める貴重なものだ。

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中国による埋め立てが進む南沙諸島の(左から)ガベン礁、スービ礁、ミスチーフ礁=全て5月上旬撮影(フィリピン国軍関係者提供)

 わが国では、韓半島での武力紛争(第2次朝鮮戦争)を想定したオペレーションズ・リサーチ「三矢研究」(1963年、自衛隊統合幕僚会議)を社会党から突き上げられて以来、長い間、まともな防衛論議に縛りが掛けられた経緯があるが、リスクそのものを正面から見ようとする米国の姿勢こそが安全保障政策にとって重要であることは論を待たない。

 リポートでは米中戦争の発火点に関し、尖閣を一例として挙げている。中国は尖閣諸島周辺における日本との対立で、米国の日米安保条約の誓約を過小評価し、尖閣で日中間の戦闘が起きても米軍は介入しないとみて軍事行動に出る可能性があるというのだ。

 ランド研究所リポートの要点は以下の通りだ。

 「米中の戦闘は東アジアで行われ、西太平洋が主な戦域になる」

 「戦域にはサイバー戦、宇宙も含まれる」

 「被害が大きい場合でも、先に核兵器を使用することは致命的な打撃となる核報復を受けるので避けようとするだろう」

 「大規模な地上戦が行われる可能性も低い」

 「双方は相手に深刻な打撃を与えるかもしれないが、どちらも敗北を認める可能性は低い」

 結局、同リポートは戦争は経済力によって決定されるだろうと説く。1年間の激しい戦争は中国の国内総生産(GDP)を25%程度減少させる一方、米国の方は5~10%程度の減少にとどまるものと予想されるという。また、長期かつ厳しい戦争は、中国経済を弱体化させ、改革開放路線で40年近い歳月をかけ、やっと手に入れた経済発展を反転させ、広範囲な混乱と停滞を引き起こすと指摘する。

 なお、中国の軍事戦略は「短期で厳しい」戦争を追求するが、米国は勝利の可能性の高い長期の戦争を志向することになることから、「長期で厳しい」戦争に対する備えをしなければいけないとランド研究所は主張し、長期戦での日本の役割を強調する。米中戦争が長引けば長引くほど、日本の軍事的な対米協力の役割と効果が大きくなるからだ。

 ただ、共産党一党独裁政権の中国は多数の国民を犠牲にしてでも戦争を遂行し得るのに対し、民主主義国家の米国は国民の血の犠牲を継続させにくい弱点がある。ベトナム戦争では血なまぐさい戦場の現場がテレビで放映され、国民の厭戦(えんせん)気分がベトナムからの米軍撤退を促した経緯がある。

 また、中国は核戦争をする意思がないと決め付けられるかどうかも疑問符がつく。

 圧倒的戦力を有する米軍を相手に、中国が選択できるのは相手の弱点を突く非対称戦略だ。その意味ではサイバーと宇宙が戦場に加わるとの指摘は正しい。

 また、中国が核のボタンを押せば、質量ともに勝る米軍の報復を受け、壊滅的打撃を受けることになるからその選択肢はないというのは一見、理解できるものの、対米牽制(けんせい)としての同盟国への核攻撃などさまざまなパターンを考える必要がある。

 そもそも毛沢東は数億人が死んでも核戦争ができる体制をつくろうとしたわけだし、「たとえズボンをはかなくても核兵器を持つ」との決意の下、1964年から96年までの32年間、46回の核実験を重ねてきたのが中国だ。基本的人権の縛りが緩い中国では、勝つか負けるか、共産党政権が生き残れるか消滅するかどうかが最大の判断材料になり、この点を熟慮する必要がある。