反米・親中露発言への懸念
南シナ海の領土領海問題をめぐる中国と他の沿岸国との対立において、反中国の急先鋒(せんぽう)を務めてきたフィリピンだが、ドゥテルテ大統領の反米姿勢が浮き彫りとなったことで、これまでのバランスに大きな変化が生じる可能性も出てきた。
ドゥテルテ氏は「私は米国のファンではない」と発言する一方で、「反米ではない」 とも述べ、同盟関係の維持を強調するなど、玉虫色の発言が目立ち同盟国を困惑させている。
ドゥテルテ氏が強調するように、単にフィリピンが自主外交路線を取るため、米国から一定の距離を置きたいだけなのか、一転して親中に大きく傾く兆候なのかは不透明なままだ。
年内に中国との2国間交渉を開始する見通しだが、依然として具体的な方針は定まっていないように見える。アキノ前政権でフィリピンとの連携を強化してきた日本や米国は、しばらく様子見を強いられることになりそうだ。
日米の大きな懸念としては、このまま当事者であるフィリピンが、ハーグの仲裁裁判所の判断を効果的に活用せず、中国が言うようにただの「紙切れ」と化してしまうことだろう。
13日にドゥテルテ氏は国軍関係者を前にして演説し、米軍と共同で行う予定だった南シナ海での共同哨戒活動に参加しない方針を示すなど、米国との歩調は乱れる一方となっている。この状況を放置すれば、日本政府においても同盟関係の見直しなどを迫られることも考えられる。
下院では左派系議員を中心に、ドゥテルテ大統領が言及した米植民統治時代の19世紀初頭にミンダナオ島で起きた米軍によるイスラム教徒虐殺の記念日を制定する動きも出ている。これまで国内でほとんど関心を持たれてこなかった歴史的な側面から、米国との溝が深まりそうな雰囲気も加速している。
また、ドゥテルテ氏はロシアのプーチン大統領に「共通点を感じる」と語っている。東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議では、米大統領との会談が中止になる一方でメドベージェフ露首相との会談があったが、「本当に楽しい会談だった」と強調し、ロシアへの強い関心をアピールした。
ドゥテルテ氏は、中国やロシアから軍事物資を調達する可能性も示唆している。一方で駐留米軍には国内から撤退するよう求めるなど、もしこれらの発言が、現実のフィリピン政治に反映すれば、比米関係は1992年に駐留米軍が撤退して以来の冷え込みとなりそうだ。
これまで「アジアのトランプ」と呼ばれていたドゥテルテ氏だが、このまま強権体制を推し進め反米親中露が加速すれば、「アジアのプーチン」と呼ばれる日も近いかもしれない。
(マニラ・福島純一)











