中国の飽和攻撃封じる統合防空

弾道ミサイルの脅威 日米の防空戦略を問う(3)

元護衛艦隊司令官・海将 金田秀昭氏

中国のミサイル戦力をどう分析しているか。

金田秀昭氏

 これは北朝鮮の比ではない。まず、発射母体がたくさんある。ミサイル自体も、対地・対艦戦術ミサイル、弾道ミサイル、巡航ミサイルなどがある。弾道ミサイルには米空母を狙う対艦用もある。中国は今すぐにでも複合ミサイル攻撃が可能である。

 日本は、イージス艦に戦術ミサイルを撃破するための一般防空用のSM2のほかに、弾道ミサイル防衛用のSM3を導入した。しかし、中国には非常に強力な巡航ミサイルがある。レーダー波は水平線の後ろ側の海面上には届かないので、能力の高いイージス艦であっても、海面すれすれにレーダー水平線以下に潜って飛んでくる巡航ミサイルは探知できない。

中国の巡航ミサイルに対処する方策は。

 離れた海域にいる他の艦艇が探知した情報を共有したり、空中からのルックダウン能力を持っている航空自衛隊が導入予定の新型早期警戒機E2Dに共同交戦能力(CEC)を搭載すれば、その共有目標情報を使って、イージス艦が見えないターゲットでもSM6という新しいミサイルで迎撃することができる。そうなれば、巡航ミサイルだけでなく一般防空、戦術ミサイル、弾道ミサイル、あらゆるものに対応できる。

中国のミサイルによる飽和攻撃が最大の脅威だとされている。

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 中国の飽和攻撃への対処法は日本もかねて研究を進めてきたが、具体化するには至っていない。一方米軍では、米海軍がNIFC-CA(海軍統合対空武器管制)という発想で、中国の複合ミサイルの脅威に対抗しようとする研究を先行させている。

 中国はA2/AD(接近阻止・領域拒否)という構想を持っている。特に、接近拒否の主対象は米空母機動部隊だ。1996年の台湾ミサイル危機で、中国は、最大の脅威は米空母であると認識し、それ以来ずっと検討してきた戦略・戦術だ。まだ完成しているとは言えないが、ほぼ手中にしたと思われるのが多元経空飽和攻撃だ。

これに対応する統合防空ミサイル防衛システムが検討されている。このシステムの具体的な説明を。

 米海軍では、空母を主軸とした空母機動部隊を防衛するためにイージス艦があるが、この能力が飽和してしまうことを恐れた。これが現実の脅威として見えてきたためNIFC-CAに着手したのである。

 米海軍は、空母に艦載されているE2Dとイージス艦を組み合わせることで、垂直面でも水平面でも極めて広大な空間の目標情報を共有することができる。この米空母機動部隊が持つ能力を高めるためのCECが現在、大西洋のセオドア・ルーズベルト空母打撃群に搭載され、実証研究が行われている。これは武器管制可能なレベルの高速・精密データリンクの探知情報共有ネットワークで、E2Dなどの外部センサーを使い、当該目標を探知していない別のイージス艦の武器を管制し、交戦することができるEOR(遠隔交戦)という能力を持つ。

(聞き手=政治部・小松勝彦)

 データリンク 敵目標に対し、迎撃戦闘機や対空ミサイルなどの防空兵器に攻撃させるために迎撃管制を行う防空警戒管制組織の自動化により、従来音声で伝えていた迎撃機への針路指令などを符号化して高速伝送する送受信装置。通常の電信の100倍の高速で,多数機を同時に管制する。