「イージス陸上型」が有効
元護衛艦隊司令官・海将 金田秀昭氏に聞く
日本にとっては「ノドン」が主要な脅威だが、これに対する日本の防衛態勢は。
ノドンは射程1300㌔の準中距離弾道ミサイル(MRBM)で、日本全土がすっぽり射程圏内に入る。だから、この標的は韓国ではなく間違いなく日本だ。私の知る限りでは、175~200発を実戦配備している。
日本のミサイル防衛は、上層防衛として、大気圏外で海上自衛隊イージス艦のSM3ミサイルで迎撃し、下層防衛として、大気圏内で航空自衛隊のパトリオットPAC3ミサイルで迎撃するという二段構えの態勢を取っている。
これらは連動するようになっているのか。
航空自衛隊の捜索レーダー、それからイージス艦と空自の迎撃システムなどがJADGE(自動管制警戒)システムによって統合され、一体となって弾道ミサイル防衛を担っている。これはわが国初の海空統合システムだ。
航空総隊の司令官が海上自衛隊のイージス艦を指揮下に入れて弾道ミサイル防衛を行う。弾道ミサイルなどによる攻撃や飛来の恐れがある場合、特別に弾道ミサイル防衛統合任務部隊を構成するようになっている。現在、稲田朋美防衛相が「破壊措置命令」を発令しているが、今まさにそういう体制になっている。
6月にムスダンが1000㌔を超える高高度で打ち上げられ、日本海の沖合に落下した。これはいわゆるロフテッド軌道だが、これに対し日本は対応できるのか。
ロフテッド軌道は急激な射角で高く打ち上げ、距離は伸びないが高速度で落ちてくる弾道だ。これは対処が難しい。ただ、日米が共同で開発し、来年度の防衛予算で初めて調達されるSM3ブロック2Aは到達高度が十分なので、ロフテッド軌道への対応は可能になる。また、6月のムスダンの飛距離は約400㌔だったが、実際に日本列島に到達させるためには、1000㌔以上に距離を伸ばす必要があり、ロフテッドの角度は浅く、最高到達高度が低くなって落下速度は遅くなるため、対応は容易となる。
防衛省は高高度防衛ミサイル(THAAD)導入の検討に入ったとの観測もあるが。
防衛省がTHAAD導入に絞って具体的な検討に入ったという事実はない。防衛省は今年度、北朝鮮よりも強大な脅威である中国の弾道ミサイルや巡航ミサイル、そして、爆撃機、戦闘機、水上艦や潜水艦を発射母体とする各種の対艦、対地戦術ミサイルによるわが国、とりわけ南西諸島方面に対する多元経空飽和攻撃(注=防御側が対処できる量を上回る攻撃を一時に加えることによって防御能力が飽和してしまった状態を作り出す攻撃)にどう対処するかの検討を始めたところだ。そのお手本となるのが、米国が進めている統合ミサイル防空(IAMD)だ。
米軍の中で検討作業が先行しているのが、米海軍のNIFC-CA(海軍統合対空武器管制)で、海軍の艦船や航空機の持つ防空やミサイル防衛関連システムを完全に統合化して連携させることで、相乗効果を発揮させるシステムの開発を進め、現在は実証研究のレベルにある。これをもう少し戦域レベルに拡張して陸海空軍を統合したものがIAMDであり、防衛省の検討作業でも研究の主対象となっている。
防衛予算に制約がある日本にとっては、IAMDは死活的な意味合いを持っている。
平成31年度から始まる次期中期防には必ずIAMDを盛り込んでもらいたい。THAADには、イージス艦のSM3とPAC3のギャップを埋めるという利点があるが、垂直面で見ればその通りだが、水平面で見ると防御範囲は限定されており、日本の沿岸部に数多く設置しなければならないという欠点がある。それに弾道ミサイル防衛しかできない。
私の個人的な意見としては、イージス陸上型が最適だと思っている。イージス陸上型はイージス艦同様、弾道ミサイル防衛のほか各種戦術ミサイルを含む一般防空、対地・対艦巡航ミサイル防衛など多様なミサイルに対応することができるからだ。もちろん、洋上のイージス艦との連接も容易で、共同能力を飛躍的に高めることになる。
イージス艦の主任務は、水上任務部隊の洋上防空で、弾道ミサイルに対応できない場合があるのではないか。
日本にはSM3を装備するイージス艦は、現状4隻しかない。現在の計画では、数年後に8隻態勢になるが、今は4隻しかない。それをやり繰りするのが大変だ。その点、イージス陸上型の配備があれば、常時陸上で運用できるので、イージス艦の負担は軽減される。日本海方面や南西諸島方面の離島などに数基置けば、北朝鮮や中国の各種の発射母体による飽和攻撃に対して、即応態勢、同時対処能力、継戦性を備えた態勢が取れる。しかも、洋上に配備されたイージス艦などと連動することもできるので非常にパワフルになる。
1998年8月末の「テポドン1」発射の時、イージス艦「みょうこう」は、その追尾に成功したが、実は、夏休みのほぼ全期間、洋上で行動し、せっかくの夏休みをつぶしてしまった。現在も「破壊措置命令」が出され、イージス艦は洋上で行動している訳だが、イージス艦乗員の負担は大変なものだ。しかし乗員は皆、歯を食いしばって頑張っている。このことだけは国民の皆さんに知っていただきたい。
(聞き手=政治部・小松勝彦)