「敵基地攻撃能力」が暴発諫める
元護衛艦隊司令官・海将 金田秀昭氏
北朝鮮や中国の弾道ミサイルの脅威が強調され、これを日本は迎撃可能か否かに焦点が当てられがちだが、軍事的野心をくじく方策はどのように考えるか。
私は、総合的なミサイル防衛施策の在り方として、かねてから「5D」を提唱している。5Dとは、諌止、抑止、拒否、防衛、局限の英語のそれぞれの頭文字から取っている。
第一が、相手をいさめて思いとどまらせるディスエージョン・ディプロマシー(思いとどまらせる外交)が重要。第二が抑止(ディタランス・ポスチュア)。核は持たないけれども、しっかりとした通常型の拒否的抑止力を持つことが大事だ。
日本は、しっかりとした外交力を持ち、国家意思を表明すべきだということか。
その通りだ。これらは外交的な部分が強いが、あとの三つは軍事的な意味合いを持つ。諌止をするにせよ抑止をするにせよ、重要なことは次の3つの機能が基礎になるということだ。
まず一つは、防衛、即ち、飛んでくる火の粉を払うこと。ディフェンス・ケーパビリティ(防衛機能)であるが、そのために能動防衛機能が必要ということだ。つまり、IAMD(統合防空ミサイル防衛)やNIFC-CA(海軍統合対空武器管制)に匹敵する能力が必要だ。日本版NIFC-CAであるJIFC-CA(海空統合対空武器管制)を開発し、第一段階(次期中期防念頭)として導入する。第二段階(次次期中期防念頭)は、米軍もまだまだだが、IAMDに匹敵する防空・ミサイル防衛の総合防衛である。私はこの二段階目の能動防衛システムを、ABCD(防空ミサイル総合防衛)と呼んでいる。この場合、陸上自衛隊の関連システムも統合する。
しかし、それだけでは足りない。相手の発射母体をたたくことも必要だ。中国の発射母体は、陸上基地、航空機、水上艦、潜水艦の四つだ。将来、宇宙基地も出て来るかもしれない。この発射母体をつぶせば良い。そのためには、海上優勢、航空優勢が確保されることが前提となるが、発射母体を無力化すること、即ち、ディナイアル・パワー(拒否能力)が不可欠であり、攻勢防御機能の保有が求められる。
攻勢防御には、敵基地攻撃も含まれるか。
そうだ。敵の陸上基地を攻撃するのはどうかという議論がある。しかし、昭和31年の「自衛権の範囲として敵基地攻撃は可能」という鳩山(一郎)答弁がある。既に、自衛権として認められている。
最後はダメージ・コントロール(被害局限)である。これは即ち、国民保護だ。弾道ミサイル攻撃を受けた時の、国民への警戒警報の発令や避難等の誘導、対処行動のマニュアルの作成や訓練の実施などは、国家や地方自治体の責任で当然やらなければならないことだ。
専守防衛の概念の見直しについてはどう考えるか。
安倍首相は「専守防衛」を捨てるとは言っていない。しかし、2013年の「防衛計画の大綱」には、弾道ミサイル防衛の項目で、「発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる」とある。敵基地攻撃についても、必要ならばやるとはっきり言っている。「5D」の中で、軍事的な三つの要素を示したが、いままで日本は能動防衛には力を入れてきたが、攻勢防御、受動防御を合わせた3要素の一つが欠けてもだめだ。
日本も核兵器を保有すべきだとする意見も、まだ一部だがある。
核戦力を含めた戦略抑止は、日本はまだそれを自身でやる政治状況ではないだろう。だから、米国に核の拡大抑止力を担ってもらうが、では日本はどうするかというと、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則のなかで、「持ち込ませず」については、実質的に見直すことが必要だ。日本は、核は持たなくとも、通常弾頭のトマホークに匹敵する航空機発射型、潜水艦発射型、水上艦発射型の対地精密巡航ミサイルを各種持つべきだ。また、今回の北朝鮮の核・ミサイル実験を受け、米軍の戦略爆撃機B1がグアムから韓国に派遣される途中、航空自衛隊の戦闘機が合流し、共同訓練を行ったが、このように堅固な日米同盟を誇示することも、戦略抑止の一つと言える。
(聞き手=政治部・小松勝彦)
(終わり)