ドゥテルテ大統領就任から3カ月、強権発動し公約遂行

ドゥテルテ大統領就任から3カ月 どこへ向かう比政権 (上)

 圧倒的な国民の支持を得て6月30日に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領。麻薬蔓延(まんえん)のフィリピンで間もなく政権3カ月を迎える。国内での高い人気とは裏腹に、国際社会では超法規的殺人を容認する「処刑人」、もしくは国家元首らしからぬ悪態を繰り返す「暴言王」としてその名を轟(とどろ)かせている。 (マニラ・福島純一)

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8月21日、フィリピン南部ダバオで記者会見するドゥテルテ大統領(AFP=時事)

 国内の治安改善と麻薬撲滅を公約にしたドゥテルテ氏に、国民の期待が集まるのは当然のことだ。ミンダナオ島のダバオ市で長年にわたって市長を務めたドゥテルテ氏は、同市で犯罪対策を推し進め、国内有数の安全な都市に変貌させた実績があるからだ。もちろん非合法の処刑部隊を暗躍させて犯罪者を抹殺していたという噂は、フィリピン人なら誰でも知っている。この強権的なスタイルが彼を大統領に押し上げた要因の一つであることは疑いようがない事実だ。

 就任直後の世論調査では、91%という高い信頼度を得たことからも、国民の大きな期待が浮き彫りとなっている。米国や国連が非難している超法規的殺人や人権侵害だが、ドゥテルテ氏にとっては国民の願いに従い公約を果たしているにすぎない。

 「俺の主人はフィリピン国民だけだ」

 ドゥテルテ氏は人権問題を投げ掛ける米国に対しこう言い放った。

 ドゥテルテ氏が就任してから9月10日までに、麻薬戦争で殺害された麻薬容疑者は約3000人に達した。そのうち逮捕に抵抗するなどして警官に殺害された容疑者が1500人近く、残りは正体不明の自警団による超法規的殺人となっている。逮捕者は約1万6000人となっており、殺害を恐れて自ら出頭した麻薬常用者や密売人は70万人を超えた。麻薬組織にとっては、まさに暗黒時代の到来といえるだろう。

 この強権的な麻薬取り締まりの副産物として、7月に発生した犯罪件数は、昨年の同じ時期と比べて31%も減少した。国家警察によると麻薬犯罪だけでなく、強盗や殺人、車両窃盗なども減少に転じたという。さらに国家警察長官は、麻薬などの違法薬物の流通は最大で90%も減少したと主張している。これが本当なら麻薬組織は流通を絶たれ、壊滅寸前といったところだ。

 米国や国連から非難の声が上がっている麻薬戦争をめぐる人権問題だが、フィリピンと同じように麻薬問題を抱える周辺諸国からはドゥテルテ氏のスタイルに共感の声も聞かれる。インドネシア警察のトップは、「フィリピンのように麻薬犯罪に対して積極的になるべきだ」と述べている。ドゥテルテ氏は就任直後の施政方針演説で、「人権は人間の尊厳を高めるためにあり、我々の国を破壊する口実に使うべきではない」と指摘。麻薬容疑者には人権ではなく銃口で対応する姿勢を鮮明にしている。

 麻薬容疑者は抹殺されるか自首の道を選ばされ、全体的な治安も改善。これだけを見ればドゥテルテ氏は短期間で公約を成し遂げた英雄と言える。