比新大統領就任、日米との防衛協力推進を
ロドリゴ・ドゥテルテ氏がフィリピンの第16代大統領に就任した。ドゥテルテ氏は長年、南部ミンダナオ島ダバオ市長として犯罪対策、治安回復で顕著な実績を上げ、大統領選挙期間中も過激な発言を繰り返して人気を集めた。
2016年米大統領選で共和党の候補指名を確実にした不動産王ドナルド・トランプ氏になぞらえ、「フィリピンのトランプ」と称される。
中国との対話を重視
アキノ前政権下での6年間の実質成長率は、年平均6%台を維持した。ドゥテルテ氏はアキノ前政権のマクロ経済政策を基本的に踏襲し、外資誘致や産業化を進めて経済のさらなる成長拡大を目指す。
汚職や犯罪の撲滅も最重点課題に掲げた。ドゥテルテ氏は国内の汚職や薬物の蔓延(まんえん)に危機感を持ち、超法規的な犯罪者の殺害も辞さない考えだ。選挙期間中は「犯罪者は殺害する」などの過激発言が波紋を呼んだ。
外交手腕は未知数で、就任演説では南シナ海での中国との領有権問題について何も語らず、「今後も国家間条約と国際的な義務を受け入れていく」とだけ述べた。「対中強硬派」だったアキノ前政権に対し、ドゥテルテ氏は中国との対話を重視する姿勢を示している。
南シナ海問題では、フィリピンが提訴した中国との紛争に関する常設仲裁裁判所の判決が7月12日に予定され、判決を受けた新政権の出方が当面の焦点となる。初閣議では判決後の対応について協議し、ドゥテルテ氏は判決を冷静に受け止める姿勢を強調。仮にフィリピンに有利な判決内容になったとしても過度に中国を刺激する方針は取らないことも示唆した。
アキノ前政権は自国の軍事力を冷静に評価し、米国や日本などとの連携を深化することで、人工島造成やミサイル設置などの軍事化を進める中国を牽制(けんせい)してきた。アキノ政権は14年にフィリピン国内に米軍の再駐留を認める新たな軍事協定を結んだ。これも中国の海洋進出をにらんでのことだ。
ドゥテルテ氏は大統領選挙後、「長年の同盟国である米国に依存することはない」と持論を繰り返している。米国との同盟関係が揺らげば、中国の脅威拡大を招く恐れもある。
この4月にはマニラ近郊などで米比両国軍の合同軍事演習「バリカタン」が行われた。日本は今回もオブザーバー参加だったが、米国防総省高官は「自衛隊が定期的に正式参加するようになる」との見通しを示した。
時を同じくして海上自衛隊の潜水艦「おやしお」が護衛艦2隻とともに、フィリピン北部・ルソン島のスービック湾に寄港した。日本の潜水艦の寄港は15年ぶりだ。中国を牽制する日比防衛協力も着々と進んでいる。既成事実の積み重ねを後退させてはならない。
海洋秩序の維持を図れ
フィリピンとしては、中国の強引で傍若無人な海洋進出を念頭に、南シナ海の秩序の維持を図る決意を消してはならないことは自明の理である。
中国の「力による現状変更」への危機感を日米比は共有しなければならない。