産業界で先行き不安の広がりを懸念


 低迷が続く国内需要に、急激に進んだ円高が追い打ちをかけ、さらに今後は英国の欧州連合(EU)離脱ショックの悪影響が加わる――。

 日銀の6月全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感が依然悪い状況にあることを浮き彫りにしたが、今後は産業界で一段の先行き不安の広がりが懸念される。景気は要警戒の段階を迎えている。

英のEU離脱の悪影響も

 6月の日銀短観では、企業の景況感が大企業製造業でこそ横ばいにとどまったが、大企業非製造業や中堅・中小企業の景況感は前回より悪化し、国内需要の弱さを改めて浮き彫りにした。

 非製造業では、熊本地震の影響もあって旅行や宿泊、飲食などが落ち込んだことに加え、これまで好調だったインバウンド(訪日外国人客)需要にも陰りが見られる。百貨店売り上げでは高額品から消耗品にシフトし、1人当たりの購買額は低下。富裕層の消費低迷も顕著になっている。

 収益悪化の懸念を強く抱かせているのが、円高の進行である。製造業では、輸出企業の採算が悪化している。特に裾野の広い自動車では熊本地震の影響に、三菱自動車とスズキの燃費不正問題が加わり、景況感を大きく悪化させた。

 短観で示された2016年度の大企業製造業の想定為替レートは1㌦=111円41銭。しかし、英国のEU離脱決定後に円相場は急騰し、一時は99円台まで値を上げた。その後はさすが戻し、最近は102円台で推移しているが、それでも想定レートを10円近く上回る円高水準である。

 輸出企業の収益悪化が鮮明になれば、設備投資計画や賃上げの動向に少なからぬ影響が予想される。それでなくとも、大企業全産業の16年度設備投資計画は前年度比6・2%増と、ここ数年ではやや弱い数字で、16年度経常利益も大企業製造業で前年度比11・6%減を予想。想定以上の円高が今後も続くようだと、輸出企業の収益が一段と圧迫され、設備投資計画の下方修正が必至の情勢となろう。

 3カ月後の見通しは大企業製造業で横ばいだが、大企業非製造業、中小企業は製造業、非製造業とも現状より悪化するとの予想で、積極的な行動を打ち出すには程遠い状況である。

 そこにさらに重しとなりそうなのが英国のEU離脱問題である。調査期間の関係で、その影響は6月短観にはほとんど反映されていない。

 同国への進出企業は1000社超に上り、業種も製造から卸売、サービス、金融と多岐にわたる。具体的な影響はまだ不透明だが、産業界には先行きへの不安が広がる。

成長あっての財政健全化

 国内総生産(GDP)統計からも明らかなように、景気は個人消費や設備投資などの国内需要ばかりでなく、輸出も冴えず、明確な牽引(けんいん)役が見当たらない。企業収益の悪化から税収の伸び悩む恐れも出ている。景気対策が求められる所以である。

 参院選では財政健全化も争点の一つだが、成長あっての健全化である。優先順位を違えてはならない。