南シナ海の航行の自由守り抜く連携を
米海軍のイージス駆逐艦が、南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島に中国が造成した人工島から12カイリ(約22㌔)内を航行した。
中国はベトナムやフィリピンなどと領有権を争う南シナ海の大半の主権を一方的に主張し、軍事拠点化を進めている。日米両国など関係国は連携し、中国を牽制(けんせい)して航行の自由を守り抜くべきだ。
中国の軍事拠点化進む
軍事拠点化を図る中国の活動が問題化して以来、米軍が人工島などから12カイリ内に艦船を送り込む「航行の自由作戦」を実施するのは、昨年10月、今年1月に続き3回目だ。
今回は、イージス駆逐艦「ウィリアム・P・ローレンス」が南沙諸島のファイアリクロス(中国名・永暑)礁の人工島から12カイリ内を航行した。中国は同礁で3000㍍級の滑走路を完成させるなど、大規模な施設建設を強行している。今月初めには揚陸艦を派遣し、実効支配の強化をアピールした。中国軍制服組トップの范長竜・中央軍事委員会副主席も先月、訪問したとされる。
国際ルールを無視し、南シナ海で一方的に軍事拠点化を進める中国の態度は看過できない。習近平国家主席が昨年9月、オバマ米大統領との首脳会談で「軍事化の意図はない」と述べたのは、真っ赤なウソだったことになる。
中国外務省の陸慷報道局長は今回の米艦航行を「中国の主権と安全を脅かし、地域の平和と安定を損なう」と批判して「断固とした反対」を表明したが、手前勝手な主張だと言わざるを得ない。
シーレーン(海上交通路)の安全確保は、日本を含む国際社会にとって重要だ。米軍は「航行の自由作戦」を継続する必要がある。今回の作戦には、今月下旬のオバマ大統領のベトナム訪問を前に、海洋秩序を維持する米政府の意思を示す狙いがあったとみていい。
すでに米軍は南シナ海でフィリピンとの共同哨戒活動に着手し、4月中旬にはフィリピンに一時配備中の対地攻撃機を、フィリピン西方のスカボロー礁(中国名・黄岩島)周辺で飛行させた。同礁では中国が人工島造成に着手しており、フィリピンの首都マニラをミサイルの射程に収める事態を米軍は警戒している。
日本も中国への牽制を強めている。先月には、練習航海中の海上自衛隊の潜水艦「おやしお」が、フィリピン・ルソン島中部のスービック港に寄港。護衛艦「ありあけ」と「せとぎり」はベトナム南部カムラン湾に入港した。
さらに、海自の練習機「TC90」をフィリピン海軍に貸与することで合意した。完成品としての自衛隊機の海外移転は初めてとなる。こうした取り組みをさらに進めるべきだ。
比は日米との協力維持を
懸念されるのは、フィリピン大統領選で当選したロドリゴ・ドゥテルテ氏の対中政策が不透明なことだ。南シナ海の航行の自由を守るためにも、日米との防衛協力を推進してきたアキノ大統領の政策を維持することを求めたい。