一面にすぎない中国の再生エネルギー利用を礼賛するNW日本語版

◆風力発電に力入れる

 「2016年の問題」と題しニューズウィーク日本語版(2015年12月29日、16年1月5日号)が特集しており、同誌の編集委員や外部識者が分担して記事を書いている。その中で「気候変動」をテーマに、「新興国が地球環境を救う?」のタイトルで、オーストラリアのジョン・マシューズ、マッコーリー大学経営大学院教授なる人物が執筆している。

 話の筋は、気候変動を抑制し、地球環境を改善するには、石炭や石油などの化石燃料を減らし、再生可能エネルギーを増やすことだという前提がまず、ある。これは妥当な見解だ。

 ところが今「アメリカとヨーロッパでは、再生可能エネルギーの利用は環境対策の一環」にすぎないが、中国とインドは「経済面でのプラス効果が大きいとの計算があ」り、「代替エネルギーへの本格的な投資を余儀なくされている」。エネルギー開発への意気込みが先進諸国とはまったく違うというのだ。

 「その結果、インドと中国は世界的な再生可能エネルギーへの移行の先頭に立っている。数十年後には、化石燃料の使用量はゼロになるかもしれない」と。

 確かに中国は、再生可能エネルギーの開発に力を入れている。14年には水力、風力および太陽光による発電量がおよそ200テラ㍗時(2000億㌔㍗時)も増加している。各国とも風力発電には力を入れているが、中国の発電容量は現在、世界一だ。

 ジョン教授は「中国とインドは再生可能エネルギーによる産業革命の実現に力を入れることで、いわばグローバルな連鎖反応を生み出している。再生可能エネルギーへの投資が拡大すれば、コストは一段と低下し、市場が拡大し、再投資がより魅力的になる」とまで言い切っているから驚きだ。

 中国の近年の経済発展に対し、エネルギーの莫大な需要を賄うのに、石炭の比重はいまだ68・5%(12年)と非常に高いシェアを占めている。北京市内の大気汚染の弊は、国政の基盤を揺るがしかねない。にもかかわらず、ジョン教授には、再生可能エネルギーの開発に躍起になっている姿しか見えないようで、国家ぐるみのエネルギー開発に、いたく感動している。

 さらに、話の筋を文明史論的にも展開している。「18世紀には、化石燃料に基づくエネルギーシステムがどんな影響をもたらすかが検討されずに移行が進んだ。今は違う。私たちは再生可能エネルギーへの移行が何をもたらすか予想できるし、その影響に備えることができる」と謳(うた)い上げている。

◆世界の石炭30%生産

 だが、これらは一面的な見方だ。例えば、PM2・5(浮遊微粒子)の最大の排出源は、石炭だ。中国の石炭は露天掘りで掘れるためコストが安く、今や中国が世界の石炭の30%を生産し、世界の50%を消費している。石炭火力発電所は200以上あり、再生可能エネルギー開発事業と並行して、毎週1基以上が建設されているとみられる。

 また中国の再生可能エネルギー開発は、国内の経済発展の度合いに任せられ、投資の対象という側面が強い。経済環境がどうなるかで、開発状況も一変する可能性がある。

 一方、ジョン教授は、中国やインド国内に、再生可能エネルギー開発に反対する声もあるとして、「反対派の大多数は、風力タービンや太陽光発電所の建設が嫌なのではない。自分たちが持つ化石燃料と原子力関連の権益を手放したくないから」だ、と。原子力関係者の「権益」を言い募るが、これは間違いだ。

 中国は原子力技術の研究、開発に最も力を入れており、原子力発電では軽水炉に限らず高速炉の研究を始めている。原発は50年までに4億㌔㍗分を建設するという。軍事的には原子力船の開発が盛んだ。

◆優る日本の公害対策

 記事は、欧米先進国と中国、インドの対比で書かれている。18世紀来の産業革命を果たした西欧は、今やっと化石燃料の限界に目覚め、次代のエネルギーは新興国が担おうとしていると言った論及だ。

 ここに日本の対応について言及されていないのは残念だ。日本は、1970年代、いち早く公害問題を処理し、今日、環境対策の一環として原子力と再生可能エネルギー開発を進めている。エネルギー問題は、欧米対新興国の切り取り方だけでは済まない。

(片上晴彦)