和平反対の比イスラム過激 農村襲撃、民間人ら13人死亡

遅延するMILF和平

懸念されるISの影響

 フィリピン南部ミンダナオ島で、イスラム過激派がクリスマスイブに合わせて、キリスト教徒が住む集落を襲撃する事件があり、民間人を含む13人が死亡した。南部では過激派組織「イスラム国」(IS)への支持を表明している複数のイスラム過激派が、治安上の大きな懸念となっている。アキノ政権が南部安定化の課題として掲げてきたイスラム武装勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)との和平締結は、スケジュールが大幅に遅れ、次期政権に持ち越される可能性が高まっており、これも懸念事項となっている。
(マニラ・福島純一)

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モロ・イスラム解放戦線(MILF)の兵士=2011年9月、フィリピン南部ミンダナオ島(AFP=時事)

 襲撃を行ったのはバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)の数百人のメンバーで、ミンダナオ中部の3カ所を相次いで攻撃し、民間人9人とBIFFメンバー4人が死亡した。襲撃を受けたマギンダナオ州では、農作業をしていた民間人5人がBIFFに殺害され、スルタングダラット州では、国軍部隊から逃走する際に人間の盾とし連れ去られた3人が殺害された。北コタバト州では、村議員が殺害された後、クリスマスの礼拝を行っていた教会が銃撃を受けた。幸い教会では死傷者は出なかった。さらにマギンダナオ州内にある国軍施設も銃撃を受け、これらの地域からは、追跡を妨害するための四つの爆弾が発見された。この襲撃により約6000人の住人が避難を強いられ、公営スタジアムなどの避難先でクリスマスを過ごすことになった。

 このクリスマスの悲劇に、ローマ法王はコタバトの大司教に電報を送り、その中でBIFFによる攻撃を強く非難。命を失った被害者の遺族に哀悼の意を表し、神の名の下に暴力を否定するよう信者に呼び掛けた。昨年にフィリピンを訪問したローマ法王は、南部の不安定な地域に関して強い懸念を表明していた。

 一方、この襲撃に関してBIFFの報道官は、殺害したのは民間人ではなく、武装した民兵組織の兵士だったと説明。民間人の死傷者がいるとすれば、戦闘に巻き込まれたにすぎないと主張した。さらにBIFFは国軍への攻撃を強化する方針を示しており、今後も多くの民間人が巻き込まれることが懸念される。

 今回の襲撃を受けたキリスト教徒たちは、強い危機感を募らせており、ローマ法王の願いとは裏腹に、一部は自衛のために銃で武装し、交代で夜間に見回りする方針を示している。また襲撃を受けた町の町長は、襲撃があるまでイスラム教徒とキリスト教徒が平和に暮らしていたと説明。イスラム教徒たちにキリスト教徒たちを守るよう結束を求めた。

 BIFFは政府との和平に反対する司令官を中心に、2011年にMILFから分離したイスラム過激派組織。昨年に創設者の司令官が病死し、後任の新しい指導者になってからは、イスラム国への支持を表明するなど、反政府活動が過激化する傾向にあり、政府が警戒を強めていた。

 政府の和平交渉団のフェレール団長は、今回の襲撃に関して「イスラム国によって作られた不安と和平交渉の遅れに乗じて、不安定化を加速させようとしている」とBIFFの動向を分析し、国軍に警戒を求めた。

 国内におけるイスラム国の活動に関しては、国軍が制圧したイスラム過激派の拠点からイスラム国の黒い旗が発見されているほか、戦闘員の勧誘が行われているとの情報も流れているが、大統領府の報道官は一貫して国内におけるイスラム国の具体的な脅威を否定している。

 MILFが和平の条件として求めているイスラム自治政府の設立に必要なバンサモロ基本法案は、昨年1月にMILFが支配領域に侵入した警察特殊部隊を攻撃し、44人の警官が死亡したことを受け、急速にMILFへの不信が強まり上院での審議が中断。この法案が違憲だと指摘し、内容の変更を求める上院議員も多く、スケジュールが大幅に遅れており、アキノ政権下で和平達成が危うい状況となっている。

 次期大統領選をめぐっては、アキノ大統領の後継候補であるロハス前内務自治長官は、世論調査で一度もトップに立てないなど人気が低迷しており、今のところ野党のビナイ副大統領が優勢となっている。ビナイ氏と並ぶ人気を誇る無所属のポー上院議員は、アキノ政権の功績を評価し、政策を引き継ぐ意思を表明しているが、国籍問題などから出馬失格となった。最高裁に提訴する方針だが、出馬できるかどうかは不透明な状況にある。