年末恒例の2016年予測で「まさか」のシナリオ提示する東洋経済
◆イベントが目白押し
戦後70年ということも相まって、昨年2015年は国内外において大きな変化があった。国内的には集団的自衛権行使のための安保関連法成立、海外との関係で見ればTPP(環太平洋経済連携協定)の大筋合意、COP21「パリ協定」採択、さらには年末の日韓政府による慰安婦問題解決の合意など歴史的転換といえるような出来事が立て続けに起こった一年であった。一方、16年は、国内では三重県伊勢志摩でのサミット(主要国首脳会談)開催(5月)、海外では台湾の総統選挙(1月)、リオデジャネイロ五輪(8、9月)、米国大統領選(11月)とビッグイベントが目白押し。果たして今年は、どのような一年になるのであろうか。
週刊エコノミスト(2015年12月22日号)や週刊東洋経済(同年12月26日・1月2日号)、週刊ダイヤモンド(同)は年末恒例の「新年の予測」を出している。経済誌であるため各誌とも経済分野での予測が主だ。
◆南シナ海に目離せず
経済予測となれば、テーマは今年の日本の経済成長率、株式・為替相場、各産業界の行方、原油価格の見通し、さらには欧米諸国、中国、新興国の動向などが通例だが、今回、企画として興味を引いたのが東洋経済の「2016『まさか』のシナリオ」である。
八つあるパートのうち最初にもってきたこのテーマには、「南シナ海で米中武力衝突」「テロの脅威 ラグビーW杯が狙われる」「消費増税 景気悪化なら再延期も」「北朝鮮 金正恩が日本と握手する」「ノーベル賞を日本が独占」「夢の医薬品 がんを治癒、認知症を予防」「リオ五輪で『金』が過去最多に」と七つの「まさか」のシナリオを提示。もっとも、リオ五輪での金メダルの数などは、「まさか」というより「もしかしたら取れるんじゃないの」と思えるくらいで、むしろ「リオ五輪がテロで突如中止」とした方が「まさか」にふさわしいと思うのだが、それはともかく、「リオ五輪の金」以外は、どれも可能性は極めて低いと考えられる。
それでも最悪の事態を想定しておかなければならないのは昨今の常識で、とりわけ「南シナ海で米中武力衝突」は「想定内」の事項と捉えてもおかしくない。同誌は、「中国は、南シナ海で進める軍事拠点化を完了すれば、基地間の相互支援によって南シナ海を面で押さえることができる。これは米国の世界戦略を根底から揺るがす変化である。中国も、米国が近海で自由に行動できる状況を何としてもひっくり返したい。双方が引けない状況下で、軍事衝突の可能性はゼロにはならない」(小原凡司・東京財団研究員)と指摘、さらに軍事衝突を海上、空中、そして尖閣諸島への飛び火という三つのシナリオで分析している。南シナ海有事になれば安保関連法の下での日本の自衛隊出動といった問題も出てくるが、それよりも原油の輸送ルート確保、原油価格上昇への対応が緊急の課題となる。そうした観点から今年は南シナ海に対しては引き続き目の離せない状況になっている。
◆中国の異質性を強調
ところで、東洋経済とダイヤモンドの両誌に国際政治学者でリスク調査会社ユーラシア・グループ代表のイアン・ブレマー氏がインタビュイー(インタビューされる人)として登場した。リーダーなき世界秩序を「Gゼロ」の時代と称して知られた同氏が今年を予測。同氏によると、「私が学生時代に学んだのは、国と国との間には特別な関係があるということ。それは長らく、英米の結びつきだった。しかし今となってはどこかに消えてしまい、それが英中の関係に変わろうとしている」(東洋経済)と語り、英国をはじめとする欧州の弱体化を指摘。その上で、「彼ら(中国)は今、経済の力で世界の市場を変えようとしている。ここで気をつけたいのは、中国は自由市場の国ではなく、法の支配によって統治されている国でもないということだ」(同)と中国政治体制の異質性を強調。
一方、ダイヤモンドで彼は、「中国のシステムは老いている。いずれ日本のシステムを中国が必要とする時が来るでしょう」と述べる。「日本のシステムを必要とする時が来る」とはリップサービスとも思えるが、ブレマー氏は中国の現体制が近い将来瓦解すると予測する。今年の干支は丙(ひのえ)申(さる)。丙は太陽のような大きな「炎」を表し、申の方角は「西南西」よりも少し南だという。日本からすればまさに南シナ海の方角で、大きな炎(戦争)を連想させるが、そうならないよう何よりも今年一年、平和な年であることを心より願うばかりだ。
(湯朝 肇)





