台湾統一地方選で国民党惨敗を招いた対中融和


 台湾の統一地方選で、与党・国民党は歴史的大敗を喫した。馬英九総統は兼任する国民党主席を辞め、江宜樺・行政院長(首相)も引責辞任した。

 「一国二制度」への懸念

 人口の約7割を占める六つの直轄市の市長選で、国民党が勝ったのは新北市だけだった。直轄市を含む22の県・市の首長選で、国民党のポスト数は15から6に減少、最大野党・民進党は6から13へと倍増させた。

 今回の統一地方選は、2年後に行われる総統選の前哨戦であり、国政選挙の行方を占う試金石だった。その意味でも、台湾の世論の流れが大きく変わった潮目を見た思いに駆られる。

 国民党が支持を失った最大の原因は、馬政権が推進した対中融和路線だ。馬政権は中台直行便就航など「三通」を実現させ、中台間の自由貿易協定である「経済協力枠組み協定(ECFA)」を締結するなど中国との関係を大幅に進展させた。

 さらに20余りの経済協定を締結したものの、サービス業を開放し合う「サービス貿易協定」に関しては台湾社会で懸念が広がり批判が噴出。今春の立法院占拠の「ひまわり学生運動」につながった経緯がある。

 この協定はECFAに基づく具体策の一環で、台湾が運輸など64、中国が証券など80の分野で規制緩和を実施し、市場を開放するというものだ。しかし、台湾が経済的に中国にのみ込まれるとの不安が広がった。

 さらに国民党に追い打ちをかけたのは香港の「雨傘革命」だった。香港では学生グループを中心とする市民が、主要な街頭を占拠した。

 中国は8月、次回(2017年)の香港行政長官選挙で「普通選挙」は導入するが、候補者認定の条件を指名委員会での半数以上の推薦獲得と決めた。香港市民は中国当局に都合の悪い人物が候補者から外されるシステムを嫌い、選挙制度の民主化要求を突き付けたのだ。

 この香港の騒動で、台湾では中国の「一国二制度」への不安が高まった。「今日の香港は明日の台湾」でもある。中国の元最高実力者、鄧小平は50年間は社会主義政策を香港で実施しないことを約束した。しかし、雨傘革命で一国二制度の実態が明らかになった。

 中国にのみ込まれつつある香港を見て、対中依存を深める台湾も同じ道をたどる懸念が危機感にまで高まったのだ。

 中国は台湾に対し「以商囲政」路線を敷いてきた。台湾との経済関係を強化して外堀を埋め、本丸の政治を落として中台統一を果たすという戦略だ。馬政権は、過度の経済依存を回避し、現状を維持することを望む台湾国民からイエローカードを突き付けられた格好だ。

平和構築へ日台連携を

 中国各紙は、選挙結果を国営新華社通信などの配信記事を使って小さく伝えるだけだった。その小ささが、逆に中国を襲った衝撃度の大きさを示唆している。いずれにしても中国は台湾に対し、従来のようにアメを与えるだけでなく、ムチをも振るうことになろう。

 我が国としては、台湾と連携してアジアの平和を構築する覚悟が問われる。

(12月5日付社説)