改憲や防衛を前面に出して国民の信を問え
衆院選で与党議席が安定過半数を超えるとのメディアの予測が出ている中で、論戦が熱を帯びている。
ただ、議論は経済政策が中心であり、国政の最重要課題である憲法改正や外交・防衛問題に触れられることは少ない。現在の日本が直面している内外情勢を考えれば、国政選挙が経済論議に終始することでよいのだろうか。
選挙戦で論議は低調
自民党は立党の政綱に自主憲法制定を掲げておりながら、また伝統を重んじる保守政党でありながら、総選挙の際に憲法、外交・防衛問題について国民に理解や支持を求めることは回避してきた。今回の選挙に際して、少なからざる国民は、安倍政権がこうした問題を積極的に取り上げることを期待していたはずだ。
憲法や外交・防衛をめぐっての政策論議が低調なのは、主として安倍政権に責任があると言える。「アベノミクス」というデフレ解消を主軸とする景気回復策を前面に押し出す一方、自民党の公約には7月に行使容認を決定した集団的自衛権の言葉がない。
この背景には、憲法や外交・防衛を取り上げると選挙に不利になるとの自民党内の思い込みがある。しかし、強引な海洋進出で現状変更を試みる中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮によって、わが国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。改憲や防衛問題を国政の重要課題として前面に打ち出すべきだ。
一方、最大野党の民主党では両問題をめぐって党内対立がある。つまり、護憲派と改憲派、非武装論堅持派と的確な水準の防衛力整備派に真っ二つに分裂しているのだ。
このため、結党以来16年以上を経過しており、また一度は政権の座に就いたにもかかわらず、両問題についての選挙公約は抽象的だ。
議会制民主主義国家にとって政権を担う能力を持った政党が複数あることが不可欠である。しかし、民主党政権が失政続きで短命に終わっただけでなく、見通し得る将来、政権の座に帰り咲く可能性が極めて低い状況にある。
今回の選挙で憲法改正や外交・防衛問題で積極的な論争が行われれば、対応できなかった反省から、選挙後に民主党内で大論争が起こることも考えられる。現在の民主党は単なる寄り合い所帯だが、これによって政治理念、基本政策を同じくする者による「本来の政党」に脱皮するきっかけになろう。
首相は丁寧な説明を
憲法改正には衆参両院で3分の2の支持を確保することが不可欠だが、今回の選挙では与党が衆院でこれだけの議席数を獲得する可能性がなきにしもあらずである。
集団的自衛権の行使容認についても、一部の政治学者・評論家の間では、これによって内閣支持率が大幅に低下するという見方が少なくなかった。だが、結果はそれほどではなかったのである。安倍晋三首相は改憲、外交・防衛問題についての論争の中で行使容認の必要性について丁寧に説明すべきだ。
(12月6日付社説)