地方創生、人口減対策の具体的議論を


 「地方へ景気回復の風を届けてこそ、アベノミクスは完成する」――。安倍晋三首相は衆院解散後の記者会見でこう言い切った。今回の衆院選では「アベノミクス」を継続させるか否かとともに「地方創生」が主要な争点の一つとなっている。

 各党とも、地方の活性化、人口減対策を柱とした地方創生をめぐる公約を掲げているが、議論が深まっているとは思えない。とりわけ人口減対策に、どれほどの危機感を持って取り組もうとしているのか、その本気度を問いたい。

物足りない自民公約

 民間の研究組織「日本創成会議」が、2040年に全国の約半数の896の自治体で20~39歳の女性が10年の半分以下となり、急激な人口減によって将来消滅するという推計を5月に発表、大きな衝撃を与えた。

 この問題提起を契機に、にわかに人口減対策、地方活性化策が大きな課題として浮上した。9月に発足した第2次安倍改造内閣では地方創生担当相を新設、「まち・ひと・しごと創生本部」の本部長に安倍晋三首相自らが就任し、衆院解散直前に地方創生関連2法を成立させた。

 政府は衆院選後に、今後5年間の総合戦略や50年後の人口1億人維持を目標とする「長期ビジョン」を策定することになっている。

 自民党が今回の選挙で掲げた地方創生に関する公約は、政府の総合戦略や長期ビジョンに当然繋(つな)がるものであるはずだ。しかし、その中身は、自由度の高い地方交付金の創設、「地方創生特区」を早期に指定し、地域の新規産業・雇用を創出する――などを盛り込んだだけだ。

 これで人口減を防ぎ、地域を活性化させられると本当に考えているのだろうか。何より、東京圏への人口一極集中への対策が出ていないのは、その本気度そのものを疑わせる。

 本格的な総合戦略や長期ビジョンは選挙後にとの考えかもしれないが、このような大事なことに踏み込んだ論議を避けるのは政権与党の公約としては物足りない。

 安倍首相は地方創生で「これまでとは次元の異なる大胆な政策」を強調してきた。その意気込みが反映されているとは思えない。国民が求めているのは、大きなビジョンでありグランドデザインである。

 与党の公明党は地方の人材流出を防止する交付金新設や、地方への人口移動を図る取り組みを進めるとしている。民主党は一括交付金の復活や国の出先機関見直しなど地方自治体への権限・財源移譲を掲げた。維新の党は道州制への移行、消費税の地方税化を打ち出している。

 安保や原発などの問題とは異なり、どの党も目的・方向は同じである。問題はその方法でありアイデアである。具体的で建設的な論議を期待したい。それは、選挙後の総合戦略の策定にも資するはずだ。

移住希望実現に知恵絞れ

 政府が8月に行った東京在住者への世論調査では4割の人から地方への移住を「予定している」または「検討している」との回答があった。こういう潜在的な希望を実現するために知恵を絞るべきだ。

(12月7日付社説 )