モンゴル安全保障の難題
危うい中露等距離外交
国連や日米の支援に期待感
9月上旬に、日本モンゴル協会の創設50周年記念のモンゴル視察旅行に同行した。筆者にとっては1978年から5度目であったが、今回の印象は変わらぬモンゴルと激変したそれとの双方の交錯であった。カラコルムへの長途では、道路整備は若干進んでいるものの雄大な草原など地勢は変わらず、中国・ロシアの2大国に挟まれた国の苦悩にも変わらぬものを感じた。
目に映る変化では、ウランバートル市に人口集中が進み、丘の頂上まで住宅が広がるなど無秩序に膨張する都市化現象があり、外資の参入、圧倒的に多い日本車や交通渋滞など、時代の変化も痛感させられた。
ここでモンゴルの現状をかいつまんで紹介しておこう。モンゴルは海外に出口のない内陸国である。国土はわが国の4倍にあたり、人口は293万人で中国の400分の1弱に過ぎないが、その40%が首都に集中している。
政治は、エルベグドルジ大統領の下にアルタンホヤグ首相の内閣が、社会主義時代の悪弊脱却に奮闘している。外交は、全方位に友好外交を展開し、特に中国、ロシアとの等距離外交に懸けている。経済は、国民1人当たりGDPが約4000㌦と中進国並みで、既にODA卒業国になっている。中心産業は牧畜で、羊を中心に4500万頭(国民1人当たり15頭)が飼育されているが、工業化は不十分である。近年、石炭、銅、ウラン、レアメタルなどの鉱物資源開発が経済を支えている。しかし、資源ナショナリズムによって投資規制法などが制定されてから投資が減少し、資源開発や輸出などが悪影響を受けている。
さらにモンゴルの現代史を振り返ると、1924年にソ連に次ぐ社会主義国となったモンゴルは冷戦下ではソ連圏の一角に位置づけられていた。しかし、冷戦後は民主化を先取りし、牧畜経済からの脱却を模索しながらも人民党統治が長く続いたが、近年は鉱物資源の開発など経済成長の中で行われた2012年の国民大会議選挙で民主党に政権が移った。
このような中でモンゴルの安全保障は、中国とロシアという強大な軍事国家に挟まれて、まず中露等距離外交に安全と安定を懸けているが、綱渡り的な危うさの中にある。問題は、思惑の異なる両国の脅威をいかに回避し、バランスにより相殺できるかである。
モンゴルは中露等距離の維持のために米国や日本など第3勢力による牽制(けんせい)・介入を期待している。実際、これに応えて米国は一定のコミットをしており、例えばモンゴルを管轄内におく米太平洋軍は毎年、海軍大将の司令官が海のないモンゴル国を公式訪問して抑止力を誇示している。しかし、日本はこれまで専守防衛などの政策的な制約から関与を躊躇(ためら)ってきた。
今日、アジアを巡る安全保障環境は中国の急台頭と米勢力の退潮、日本の新防衛戦略などの変化があり、現にモンゴルを巡って中露両国のせめぎ合いは繰り返されている。具体的には、モンゴルは石炭輸出などで経済的に中国への依存を強めており、さらに6月の習近平主席訪モでは大規模投資がお土産とされた。しかし、投資は歓迎されたものの、過度な中国依存への警戒感も浮上している。他方、今次訪モ間にプーチン大統領の日帰り訪モがあったが、先の習氏訪モに対抗するようにシベリア鉄道の複線化をお土産として、モンゴルの要望に応えていた。
このようにモンゴルは、貿易面では中国に依存しながら、自動車化が進む中でガソリンの95%はロシアに依存するなど、中露両大国の強い影響下にあって恩恵や縛りを受けており、等距離外交の難しさと不安定さは依然として残っている。このような中で、モンゴルはもう一つの安全保障策として、国連平和維持活動(PKO)などにも積極的に参加しており、万一、危機の場合には国連の支援を期待する政策を進めている。多国間共同訓練などにも意欲的に取り組んでおり、例えば米・モンゴル主催多国間共同訓練「カーン・クエスト14(CQ14)」にはカナダ、ドイツ、インドなど13カ国が参加し、わが国の陸上自衛隊も今年から参加している。
日本との関係は、13年6月の安倍総理に続いて今年4月には太田国交相も訪モしており、またモンゴルからはこの1年で大統領から首相、外相、国防相の来日が続くなど、近年、親密で良好な関係に発展している。さらに時代の変化を感じさせるのは、先のCQ14参加に加えて陸上幕僚長が初めて6月にモンゴルを公式訪問し、同演習の視察とモンゴル軍参謀総長・国防次官との会談をしており、モンゴルの安全保障にも関わってきたことである。
また、今次訪モに当たり清水大使を表敬したが、モンゴル国の医療制度の充実や人材育成への協力の必要性が力説された。現に重病人は中国や日米に渡って医療措置を受けており、国内の医療水準の向上は喫緊の課題で、医療技術と設備近代化などへの協力が待たれている。既にモンゴルでは、日本に留学した人材が大学学長や経済界のリーダーとして活躍しており、長期的な国づくりとして人材育成支援の必要性も高い。
日本人は大相撲の力士への親近感だけでなく、もっとモンゴル国に対して関心を深め、わが国の国家戦略として親身に国家建設に協力することの重要性を痛感させられた旅であった。
(かやはら・いくお)






