フィリピンで地位協定見直し論議再燃か

米海兵隊員に比人男性殺害容疑

 フィリピン北部の歓楽街で、同性愛者のフィリピン人男性が遺体で発見された事件で、現地警察は、比米合同軍事演習に参加していた米海兵隊員の犯行であるとの見方を示した。容疑者の米海兵隊員は既に米側に拘束されており、フィリピン政府は身柄の引き渡しを求める方針だが、訪問米軍地位協定に基づき拒否される可能性がある。反米派からは強い反発の声が上がっており、訪問米軍地位協定や新軍事協定の見直しをめぐる議論も再燃の兆しをみせている。(マニラ・福島純一)

新軍事協定を違憲とする声も

比米軍事同盟強化に水差す

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6月26日、フィリピン・ルソン島のスービック湾の海軍艦船上で合同演習「協力海上即応訓練(CARAT)」の開始式に臨む米比海軍関係者(AFP=時事)

 11日にサンバレス州オロンガポ市にあるホテルで、同性愛者の男性が殺害されているのが発見された。遺体は毛布を体に巻いただけの半裸状態で、浴室の便器に頭を突っ込んだ格好で倒れており、首を締められた跡が残っていた。ホテル従業員の目撃証言などから、男性は白人男性と一緒にホテルにチェックインしていた。そして部屋を清掃に訪れた従業員が遺体を発見する直前に、白人男性は一人でホテルを出ていた。

 殺害された男性と白人男性は、ホテル近くのディスコで知り合ったみられており、店内の防犯カメラには二人が一緒にいる様子が記録されていた。男性は性転換者で事件当時、女性の格好をしていた。地元警察はこの防犯カメラの映像などから、容疑者の白人男性が合同演習でフィリピンを訪れていた米海兵隊員であるとの見方を示した。

 その後、米大使館によって、容疑者の米海兵隊員が、スービックに寄港中の米強襲揚陸艦内で拘束されていることが明らかにされた。既に犯行を認めているとみられ、大使館はフィリピン側の捜査に全面協力するとの声明を発表した。

 フィリピン外務省は、警察当局が米海兵隊員を容疑者と断定したことを受け、近く米当局に容疑者の引き渡しを求める方針を示している。しかし、訪問米軍地位協定では、国内で発生した事件に関してフィリピン側に裁判権があるとされているが、容疑者の拘束に関しては、米国側に判断が委ねられるという、フィリピン側に不利な内容となっており、引き渡しが拒否される可能性も高い。

 フィリピンでは2005年にもルソン中部のスービックで、合同軍事演習のために現地を訪れていた米海兵隊員が、フィリピン人女性を強姦(ごうかん)する事件があり、翌年に40年の禁固刑が言い渡された。しかし海兵隊員は有罪になったにもかかわらず、訪問米軍地位協定を理由に米大使館に引き渡され、これに反発する左派系グループの反米デモが拡大。議会では訪問米軍地位協定の見直しを求める声も高まった。この事件は最終的に、被害者の女性が当初の証言を撤回したことで、米海兵隊員は無罪となり帰国したが、米政府と被害者の間に何らかの取引があったとの臆測も流れるなど、国家の司法がないがしろにされたとの批判も噴出。訪問米軍地位協定の在り方に大きな課題を残した。

 今回の事件を受けサンチャゴ上院議員は、今月中にも上院の外交委員会で訪問米軍地位協定の見直しに関する公聴会を開く方針を示している。同議員は以前から、訪問米軍地位協定が不公平な内容だと指摘し、米政府に再交渉を求めるべきだと強く主張していた。

 一方、最高裁では、今年4月に締結された、国内での米軍の活動拡大を認める新軍事協定の違憲性をめぐる訴訟が起こされており、近く口頭弁論が行われる見通し。この新軍事協定をめぐっては、「事実上、米軍の再駐留を認める内容で、外国軍の駐留を禁止する憲法に違反する」との見方のほか、上院による批准が必要との意見も根強い。今回の事件をきっかけに、国内の米軍プレゼンスをめぐる議論が再燃するのは確実とみられ、政府の対応に注目が集まる。