ASEAN会議、対中批判を打ち出せず残念
一連の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議がミャンマーの首都ネピドーで行われた。最大の注目点は、ASEANが南シナ海で海洋進出を強める中国を明確に批判する共同声明を打ち出せるかどうかだった。だが中国の分断工作もあって、共同歩調を取れなかったことは残念である。
比が「3段階の計画」提案
今回の外相会議の焦点は、南シナ海問題だった。ベトナムが排他的経済水域(EEZ)と主張するパラセル(中国名・西沙)諸島周辺で、中国が5月に石油掘削を強行し、中国の公船がベトナム船と衝突した。スプラトリー(同・南沙)諸島では中国が滑走路を建設しているとの疑いも浮上している。着実に実効支配を進める中国への警戒感が高まっており、ASEANの対応が注目された。
南シナ海の領有権をめぐって中国と対立するフィリピンは①関係国が一定期間、緊張を高める行動を凍結②海上での行動を法的に規制する「行動規範」(COC)の策定を目指す③併せて恒久的な解決策を議論する――との「3段階の行動計画」を提案した。共同声明は南シナ海問題について「緊張を高めた最近の情勢をなお深刻に懸念している」と表明。全当事者に自制を求めたが、フィリピンの提案に関して「留意した」との言及にとどめたのは残念だった。
7月の米中戦略・経済対話でケリー国務長官は中国政府に対して「一方的な行動が周辺諸国の懸念を高めている」と批判しており、フィリピンは米国の主張を代弁する形となった。ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議では、米比両国が中国を念頭に、挑発行為の自発的凍結や一時停止を訴えた。
一方、議長国のミャンマーは5月のASEAN外相会議で、南シナ海で力による一方的な現状変更を続ける中国への「深刻な懸念」を共同声明で取りまとめた。それが今回は南シナ海問題で「中立」を表明し、対中軟化姿勢に転じた。
原因は米国への反発だとされる。ケリー国務長官がミャンマーのテイン・セイン大統領と会談した際、人権問題などを取り上げ、民主化促進に向けた圧力を掛けたという。ミャンマーでは軍部を中心に米国へ不満を抱く者が多く、そこを巧みに利用して中国がミャンマーを取り込んだとみてよい。
中国は今まで経済中心だったASEAN諸国との協力関係を政治や安全保障の分野に広げて「米国外し」の戦略を進めている。従来しぶってきたASEANとのCOC策定への公式協議開催で一致したのも、COCの枠組みで「当事者同士による解決」(王毅外相)を掲げて、ASEAN諸国を“個別撃破”することが狙いであろう。
協力関係拡大が急務
岸田文雄外相は今回、王外相と会談した。これを受け、安倍政権は日中首脳会談実現に向けた環境整備に本腰を入れる方向だ。だが、東シナ海や南シナ海での中国の一方的な行動に甘い対応を取ることがあってはならない。中国を牽制するため、巡視船供与や人材育成などの面でASEAN諸国との協力関係を拡大することが急務だ。
(8月12日付社説)