愛国のライチ
地球だより
南シナ海を自国の内海のように振る舞う中国の強引な手法にベトナムは黙っていない。それは巨人・中国を前に蟷螂(とうろう)の斧(おの)でしかないが、「一寸の虫にも五分の魂」だ。
だが巨人は鞭(むち)を持っている。今回、ベトナムが領有権を主張している西沙諸島近海に、中国が石油掘削リグを設置したことへ抗議したことに対して、素早くその鞭を使った。
ベトナムがささやかな外貨を稼いでいる輸出品ライチを、中国は差し止めたのだ。茘枝(れいし)とも書くライチは、かつて楊貴妃が好み、ベトナムから長安まで早馬で運ばせたとされる果物だ。無論、表向きは密輸対策による国境の税関閉鎖という形だが、これまで何度もあった露骨な龍の威嚇だ。
わが国も尖閣沖の中国漁船領海侵犯事件で、レアアースの禁輸措置を受けたことがある。隣国フィリピンも、南沙諸島のトラブルで中国によってバナナの輸出を止められた経緯がある。
遠くはノルウエーがサーモンを中国市場から締め出された。この時は中国人権活動家の劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞したことへの嫌がらせだった。
なおベトナムでは中国の禁輸措置で余ったライチの国内消費を促している。ライチを食べることが愛国につながり、中国の野蛮な野心を打ち砕くことになるというわけだ。
だが、わが国や欧米諸国も大きく門戸を開き、中国の鞭を無効にする手だてが必要だろう。
(T)