中国には「日米比越連合」で
野心的行動に対抗せよ
尖閣で潜水艦基地化を狙う
5月26日、ベトナムと中国が領有権を争っている南シナ海のパラセル諸島(中国名・西沙諸島)周辺に建設された、中国の石油採掘(ガス田)施設に近づこうとしたベトナム漁船1隻を、中国漁船約40隻が取り囲み、体当たりして沈没させた。
中国漁船は、軍人や海上民兵が乗り込んだ偽装漁船の可能性もあり、今回の中国の行動は、ベトナムに対する脅し以外の何ものでもない。そもそも、中国が南シナ海を「中国の海」のように行動するようになったのは、1992年に、フィリピンにあった世界最大級の在外米軍基地(スービック海軍基地・クラーク空軍基地)が撤退してからだ。
この動きを受けて、中国は「力の空白」につけ込むかのように、南シナ海に進出してきた。そして1995年、中国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、台湾が領有権を主張している南シナ海の南沙諸島・ミスチーフ環礁を、中国は占拠してしまったのである。
フィリピンは、南沙諸島周辺海域を航行中の中国漁船を領海侵犯として拘束するなどの報復に出たが、軍事行動をちらつかせる中国に対して、なすすべがなかった。
1999年に入ると、中国はミスチーフ環礁の軍事要塞化を進め、あっという間にスプラトリー諸島(南沙諸島)を占領する。当然、フィリピンは中国に対して抗議したが、後の祭りで、南シナ海の拠点を中国にみすみす奪われてしまう。
これら一連の中国の行動は、南シナ海だけにとどまらない。平成22(2010)年に発生した中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件以降、東シナ海も同じような状態になりつつある。
最近はあまり大きく報道されなくなったが、現在も中国公船が、日本の接続水域や領海にたびたび侵入を繰り返している。また、中国は南シナ海での石油採掘だけでなく、東シナ海の日中中間線の近くでも石油採掘を続けている。
特に「春暁ガス田」「天外天ガス田」は、日中中間線から僅か4㌔㍍しか離れていないため、中国側海域での採掘であっても、日中中間線を越えて海底からストローで日本の資源が吸い取られてしまう恐れすらある。
「平湖ガス田」「春暁ガス田」「天外天ガス田」の施設には、それぞれヘリポートの設置が可能で、これらのヘリポートは土台を堅牢にすれば、垂直離発着機が発着できるばかりか、衛星の発射台としても利用できる(平松茂雄著『中国はいかに国境線を書き換えてきたか』草思社)。中国の石油採掘施設は、単に資源を採掘・処理するだけでなく、戦略的拠点・軍事施設として利用することによって、東シナ海を「中国の海」にするための前線基地としても利用する意図があるのだ。
中国が尖閣諸島を欲していることは周知の事実であるが、尖閣諸島の中でも魚釣島の周辺海域は水深が深く、潜水艦基地を建設するのには最適な島となっている。尖閣諸島の島々に、エネルギー資源があるわけではない。中国は太平洋に進出するための中継基地として、尖閣諸島を利用したいのである。
4月28日、オバマ米大統領とアキノ比大統領が会談し、フィリピンでの米軍派遣拡大を可能とする新軍事協定に署名した。会談では、中国の南シナ海への進出を牽制(けんせい)し、安全保障での協力関係が確認された。新協定によって、フィリピンは中国への抑止力を強め、米国も南シナ海での存在感を高めることになる。
安倍晋三首相は、5月31日、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議で基調講演を行い、南シナ海や東シナ海で緊張が高まる中、「積極的平和主義」を訴え、地域の海洋安全保障に貢献することを約束。小野寺五典防衛大臣も6月1日、ベトナムのフン・クアン・タイン国防大臣と会談し、南シナ海や東シナ海への進出を強める中国を念頭に、力による現状変更は認めないという認識で一致した。
一方、中国は2013年から、尖閣諸島を「中国の核心的利益」とする主張を始めている。「核心的利益」とは、中国の安全保障問題のなかで譲歩できない国家利益を意味し、台湾、チベット、新疆ウィグルのほか南シナ海も対象としている。
日本は今後、中国の野心的行動に対抗するためにも、日米同盟の強化、フィリピンやベトナムとの連携を通じて、中国の領土・資源欲を抑え込む態勢を構築する必要がある。現在、国会で議論されている集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の見直しなどは、まさに中国に対する絶好の牽制となるに違いない。
はまぐち・かずひさ 昭和43年熊本県生まれ。防衛大学校卒。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、日本政策研究センター研究員、栃木市首席政策監などを経て、現在、拓殖大学日本文化研究所客員教授、一般財団法人防災検定協会常務理事・事務局長。著書に「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版)、「探訪 日本の名城 戦国武将と出会う旅(上巻・下巻)」(青林堂)、「祖国を誇りに思う心」(ハーベスト出版)など。






