反政府勢力にライフル1000丁、比国家警察に銃の大量横流し疑惑

 フィリピンで、警備会社が購入し、国家警察にも登録済みの1000丁にも及ぶ銃が、反政府勢力に横流しされたことが明らかとなり大きな波紋を呼んでいる。横流しには複数の警察幹部が関与している可能性が指摘されるなど、組織ぐるみの犯行の可能性も浮上している。マニラ首都圏では、在留邦人が射殺される事件が起きるなど、銃犯罪の横行が社会問題となっているが、警察はこれを阻止できないばかりか、銃の氾濫に加担している構図が浮き彫りとなった形だ。(マニラ・福島純一)

銃犯罪横行、邦人も犠牲に

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大量のライフル銃が反政府勢力に横流しされていたことが判明したフィリピン。写真はフィリピン共産党の軍事部門、新人民軍(NPA)の兵士=フィリピン共産党の統一戦線組織、民族民主戦線(NDF)のウェブサイトから

 国家警察の犯罪捜査部門は6日、国家警察に登録されていた、およそ1000丁の「AK47アサルトライフル」が行方不明となり、その中の幾つかの銃が、フィリピン共産党の軍事部門である新人民軍(NPA)から回収されていた事実を明らかにした。銃を管理していた警備会社の社長は調べに対し、NPAに脅迫されていたと主張し、2011年ごろからバスターミナルや市場などでNPAに銃を引き渡したと証言した。

 国家警察の犯罪捜査部門は、銃のライセンス登録や、その所在の確認を担っている警察の担当部署が、意図的、もしくは職務怠慢により、横流しを見逃していた可能性が高いと指摘し、警察幹部を含む19人に責任があるとして捜査を進める方針を示している。

 行方不明になった銃のうち、これまでに回収されたのは44丁にとどまっており、その大半はNPAゲリラによって、現在も使用されているとみられている。皮肉にもこれらの銃は、NPAの攻撃対象となっている鉱山会社の警備に使用される名目で購入されていた。

 NPAは、共産党幹部の夫婦が今年3月に当局に逮捕されたことに対する報復として、各地で警察や国軍への攻撃を活発化させ多数の死傷者を出しているが、横流しされた銃がNPAの活動を勢いづかせる一因となっている可能性もある。

 さらに、この横流し事件に先立つ先月にも、国家警察本部で保管してあった1100万ペソ(約2500万円)相当の拳銃59丁が紛失する不祥事が起き、大きな問題となったばかりだ。この事件では、警察に銃を販売していた会社の従業員2人が、保管庫から銃を持ち出していたことが発覚し逮捕されたが、銃は既に売り払われた後で、警察のずさんな銃の管理体制が浮き彫りとなっていた。

 さらに、政府との和平路線に反対し、イスラム武装勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)から離脱し、武装闘争を続けているバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)も、国軍から武器や弾薬の供給を受けていると主張しており、国軍にまで横流し疑惑が波及する可能性も出ている。

 フィリピンでは、反政府勢力だけでなく、強盗や殺人などの一般犯罪にも銃が当たり前のように使用されるなど、銃の横行が大きな社会問題となっており、先月にはマニラ首都圏で、旅行代理店の支店長を務める邦人男性が、乗用車を運転中にバイクに乗った2人組の男に、至近距離から拳銃で撃たれて死亡する事件が起きている。その後の警察の捜査で、現地在住の邦人の男と、その妻を含む6人が事件の容疑者として浮上しているが、事件後に姿を消しており警察が行方を追っている。

 このような事件では、正式に登録されていない違法銃が使われることが多く、捜査が難航する一因となっており、違法銃の撲滅が警察の大きな課題となっている。その違法銃を取り締まる立場の警察組織による銃の横流しも、過去に何度も問題となっており、この国における腐敗撲滅の難しさを象徴している。