天安門25年、中国共産党独裁に未来はない


 1989年6月4日、民主化を求めて北京の天安門広場で座り込みをしていた市民や学生らに対し、中国人民解放軍の戒厳部隊が無差別銃撃を行った。世界に発信された日曜日未明の惨劇は今も脳裏に焼きついている。あれから四半世紀を経た中国で、経済改革とは裏腹に政治改革はしないことの矛盾が改めて浮上している。

 全土で年20万件の暴動

 天安門事件で失脚し、2005年に死去するまで16年もの間、軟禁生活を強いられた趙紫陽元共産党総書記は、孫のおもちゃ箱の中に談話を録音した60分テープ30本を潜ませていた。それが『趙紫陽極秘回想録』として出版されている。回想録で明らかになったのは、趙氏が「社会の自由化なしに中国の未来はない」と考えていたことだ。

 プロレタリア独裁の国々の大多数が歴史から消え去ったことを回顧し、「西側の議会制民主主義体制ほど強力なものはない。現代、実現可能な最高の体制だ」「国家の近代化を望むなら、市場経済を導入するだけでなく、政治体制として議会制民主主義を採用すべきだ」と言い残している。その上でもし、これができないようであれば「権力と金が取引され、腐敗が蔓延し、社会は富裕層と貧困層に分断するだろう」と予見している。

 それは現実となっている。格差社会の実態を示すジニ係数は0・6を超え、危険水域とされる0・5を上回る。今年の大学新卒者は700万人以上に上る見込みだが、就職率は年々低下している。何より官僚や太子党などエリート階層の汚職が蔓延し、社会の不満と憤懣(ふんまん)は燎原の火のように拡大しつつある。

 中国全土で年間暴動件数は20万件とされ、公安予算が中国人民解放軍の予算を凌駕(りょうが)しているという実態がチャイナリスクの高まりを反映している。

 強い求心力を持つ一党独裁体制は、一時的には効率のいい開発独裁として機能した面がある。高速道路を全土に広め、高速新幹線を通し、海外の工場を誘致する工業団地を整備するのに力を発揮した。

 国を富ませることは正しい道だ。だが、それが独裁を維持するためのものであれば、いずれその政権は倒れる。経済成長と教育の普及、利用者が5億人とも言われるインターネット社会の到来で、国民の人権意識や環境保護意識は高まっている。中国共産党独裁という現状の延長線上に未来があるわけではないことは誰の目にも明らかだ。

 人は危機に遭遇した時、その本性が現れる。国家も同じだ。中国は25年前、民主化を求めた大衆に共産党の私兵である人民解放軍を差し向け、ライフルの無差別発砲で応じた。「国家は銃剣でうまれる」(毛沢東)という地金が出たのだ。

 批判を封じ込めるな

 最近も、天安門事件について考える小さな集会をもった弁護士や学者が次々に拘束されている。批判を力で封じ込めて何の意味があるのか。実行すべきは汚職や格差、就職難、人権弾圧などの解決であって、こうした問題を指摘する人々を排除することではない。政治改革を先送りし続けたツケを、いずれ中国は支払わないといけない。

(6月4日付社説)