エジプト大統領選、民主化への足掛かりにせよ


 エジプト大統領選が行われ、シシ前国防相が9割を超える圧倒的多数の支持を得て当選を確実にした。前政権への国民の不満が数字に表れた格好だが、悪化した経済と治安の回復という大きな課題が待ち受けている。

反発するムスリム同胞団

 シシ氏は国防相、軍最高評議会議長としてモルシ前政権の中枢を担ってきたが、昨年7月のクーデターを主導し、イスラム組織ムスリム同胞団系のモルシ大統領を解任した。

 同胞団はエジプト国内で事実上最大の政治・社会組織だ。正規の会員だけでも数十万人に達する。医療、教育などで草の根の活動を行い、貧困層からの支持が厚いとされる。

 ムバラク長期独裁政権崩壊後、イスラム教徒が人口の9割を占める同国で同胞団に国民の支持が集まったのは、当然の流れだったと言えよう。

 しかし、モルシ氏は出身母体である同胞団を露骨に優遇する政治を進め、国民の反発を買った。さらに、ムバラク氏の退陣後悪化していた経済はモルシ政権下でさらに悪化、国民の間で拒否感が強まり、何らかの形での政変は不可避だった。

 クーデター後、同胞団は暫定政権に「テロ組織」として非合法化されている。今回の大統領選をボイコットするなど体制への反発を強めており、今後、同胞団にどう対応していくかがシシ次期大統領にとって大きな課題となってこよう。かじ取りを誤れば、一層の治安の悪化を招きかねない。

 次期政権にとってのもう一つの課題は経済だ。エジプトにとって観光は最大の外貨獲得源。ムバラク政権退陣に伴う混乱で一時、減少していた観光客はモルシ政権下で戻り始めていたが、クーデター後の騒乱で再び減少した。

 観光を回復させるには治安の安定が不可欠であり、同胞団によるテロへの強力な取り締まりとともに、新政権への取り込みなどの融和策も必要となってこよう。

 エジプトは財政再建へ国際通貨基金(IMF)に支援を求めていた。しかし、交渉は難航、現在は湾岸諸国からの支援が頼りだ。同胞団を体制への脅威とみるサウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)はモルシ大統領解任後、120億㌦ものエジプト支援を表明した。反同胞団で利害が一致した格好だ。

 シシ次期大統領は、同胞団対策などで当面は強権政治を行うことが必要になるとみられるが、できる限り早期に民政移行の道筋を示すべきだろう。

 エジプトはアラブ諸国の中では最大の人口を擁し、地域の大国として重要な位置にある。「アラブの春」による政権交代で、リビア、イエメンなど多くの国が政治的混乱状態にあるが、エジプトが民主国家への道を進み始めることができれば、他のアラブ諸国にとっても手本となるはずだ。

国際社会は支援継続を

 経済援助を停止していた米国も、一部援助を再開した。日本も政治的、経済的支援で同国安定化へ貢献してきた。新政権誕生をエジプト民主化への足掛かりとすべきだ。

(6月3日付社説)