中国の南シナ海軍事拠点化

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

重大視する飛行場建設

空母、核搭載潜水艦配備へ

 南シナ海西沙(パラセル)群島における中国ベトナム間の領有・海底資源問題を巡る争いが活発化し、ベトナム国内での反中国デモの激しさが報道され、我が国の在越企業も影響を受けたという。若干の所見を披露してみたい。

 南シナ海に浮かぶ係争の焦点となっている小島、岩礁、洲は多数あり、西沙群島は中国、台湾、ベトナムが領有を主張、フィリピン西方海域に点在する南沙群島(スプラトリー)は、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイが、全体または一部の領有を主張している。東沙群島は、台湾が澎湖島付属の島嶼(とうしょ)として実効支配し、中沙群島は、中・台・比・越が領有権を主張している。

 特に問題が顕在化しているのは、中国・ベトナム、中国・フィリピン間である。中国・ベトナム間の海上武力衝突での中国の圧勝以来、西沙は全島中国の実効支配下にあるが、ベトナムはその国際法的帰属権を放棄しておらず、今回はベトナムEEZ(排他的経済水域)内での地下資源採掘に対し抗議しているものである。南沙はさらに複雑で、領有を主張する国々それぞれが実効支配となる建築物を持ち、互いを監視し合う体制にあり、現場の小競り合いがある度に、非難し合う形となっている。

 南シナ海問題は尖閣と同様、1970年以降、海底資源の有望性から中国が急速に進出を始めたことによるものと言ってよい。種々の交渉経緯を経て、02年「南シナ海における関係国の行動に関する宣言」調印により、平和的解決への道が始まったと認識されたが、07年以降、海軍力充実とともに漁業監視の名目で中国の再進出の動きが活発化した。

 今後の推移に関しては予断を許さないが、従来の視点から変わった点を指摘しておきたい。それは、南シナ海の軍事的重要性にある。中国の南シナ海の最も重要な軍事拠点は、海南島にあると言ってよい。海南島事件でお馴染みとなった米軍EP3事件を始め、海空軍の拠点として、トンキン湾を挟んでベトナムを制し、ASEAN方面、インド洋方面を睨む絶好の位置にあるからであるが、最近に至って、その重要性がさらに倍加されたとみるべきである。

 それは、中国が建造していると見られる国産空母の配置がこの方面になるであろうことが、ほぼ確実とされていること、整備が進んでいる戦略核ミサイル搭載潜水艦の地下化された重要拠点となるであろうことからである。このため、多大な支出を伴う飛行場の建設を、西沙群島で実施中なのである。好天時の衛星写真が報道されているが、実際の運用は大変な努力が必要である。波浪・高潮、塩害、風害そして直射日光をしのいで、洋上に孤立した飛行場を維持管理するのは、重大な必要性がなければ決してペイするものではない。この海域に懸ける中国の意気込みを感じる。

 各国の関与状況は、米国は「懸念の増大する領域」とし、政策の基本は、帰属に関しては如何なる国々にも肩入れしないが、航行の安定・自由、阻害されない経済発展の維持にあるとする姿勢である。しかし、近年、ベトナムヘの空母、イージス艦等の訪問、一部共同訓練等を行っており、確実に関与を深める姿勢にある。フィリピンとの関係も、92年の米軍撤収以降、20年ぶりに米比新軍事協定が締結され、南沙群島におけるフィリピン実効支配地域は格段の強みを持ったと見てよいだろう。

 我が国は、全くと言ってよいほど関心が薄い。殆どの人が、西沙が中越それぞれからほぼ等距離にあること、南沙はフィリピン、ブルネイ、マレーシアに近く、中国からは首を傾げるほど遠い距離にあること、東沙は台湾が実効支配し国立海上公園化していることなどを知らない。我が国には本海域に深く関係していた歴史があり、我が国シーレーンの骨幹となる重要地域である。勿論、領土的な野心は毛頭ないが、米国と同様「安全自由な航行」「開かれた経済活動」を支持する立場にあるべきで、より関心を深めるべきであろう。

 因(ちな)みに、我が国は昭和13年、南シナ海諸群島を統治下に入れ、「新南群島」と呼称し台湾高雄市に編入し国際公告を行った経緯がある。これは国際法的に極めて重要な事項で、現在、台湾が東沙、中沙、西沙、南沙の全域を台湾領と主張する法的根拠となっている。すなわち、台湾、澎湖島及び付属島嶼は、下関条約により「永遠に日本に割与」されており、中国に帰属することは「永遠に」ありえないとし、サンフランシスコ条約により日本は台湾・澎湖諸島・新南群島にかかる一切の権利と請求権を放棄、約半年後同条約に参加を許されなかった中華民国と日華平和条約を締結し、台湾、澎湖島、新南群島、西沙群島の一切の権利、請求権の放棄を再確認した。従って、新南群島、西沙のあらゆる島嶼の統治権は、中華民国(台湾)にあるとするものである。

 今後この海域は、地下資源のみならず、戦略的重要性から、中国のみならず、沿岸諸国の経済発展とともに、係争地として紛糾が続くものと考えられることから、我が国は関心を深め、この重要なシーレーンの安定した状況が維持されるよう、支援・貢献して行くべきである。

(すぎやま・しげる)