南シナ海緊張、身勝手極まりない中国の行動
豊富な海洋資源が埋蔵され、海上交通の要衝でもある南シナ海で、領有権をめぐって中国とベトナム、フィリピンとの間で緊張が高まっている。
パラセル(中国名・西沙)諸島付近では中国の艦船とベトナム艦船が衝突する事件が発生。また、スプラトリー(中国名・南沙)諸島のハーフムーン礁(中国名・半月礁)沖ではフィリピンによる中国船拿捕事件が起きている。
ベトナム船に体当たり
ベトナムは、中国がパラセル諸島付近で海底油田の開発のため巨大な石油リグを備え付け、一方的に掘削を開始したことに抗議し、海上保安船など約30隻を現場に派遣、現在も中国船とのにらみ合いが続いている。この水域はベトナムが主張する排他的経済水域(EEZ)に当たるという理由からである。
事態はエスカレートし、中国側の採掘作業を阻止しようとしたベトナム船に、掘削設備の護衛に派遣された中国船約80隻の一部が体当たりし、負傷者が出たばかりでなく、ベトナム船8隻が損傷を受けた。ベトナム政府は中国船がベトナム船に体当たりし、放水を繰り返す映像を公開した。
中国は西沙諸島を1970年代に実効支配した。隣国中国とのアプローチには極めて慎重なベトナムであったが、今回の中国の行動で、まさに堪忍袋の緒が切れたと言ってよい。
一方、フィリピン海洋警察は中国が領有権を主張するハーフムーン礁沖で中国漁船1隻を拿捕し、船内から約500匹のウミガメを押収した。フィリピン外務省は、警察の行動は法に基づき、国の主権上の権利を守るために行われたとの見解を発表した。同礁はフィリピン西部パラワン島から約100㌔に位置する。
中沙諸島には昨年、半年近くフィリピンと中国の艦船がにらみ合った末、中国が実効支配を強化するに至ったスカボロー礁(中国名・黄岩島)がある。さらに、中国は南沙諸島でフィリピンが実効支配しているアユンギン礁を取りに出ている。本年3月以降の補給阻止などの動きがまさにそれである。フィリピンは同礁死守の構えである。
中国は南シナ海のほぼ全域を領海と法律で定めている。これまで中国が実効支配した殆んどは満潮時に水没する環礁だったが、今や領土として確保できる環礁や島を占拠する行動に出ていると認識せざるを得ない。こうした動きは一方的で、身勝手極まりないものだ。
菅義偉官房長官は中越船舶の衝突について、中国の一方的な海洋進出活動の一環であるとの認識を表明し、中国に「国際法を順守して自制的に行動することを強く求める」と語った。
尖閣防衛体制の強化を
東シナ海でも沖縄県・尖閣諸島周辺での中国の蛮行が常態化している。とりわけ2010年秋の中国漁船の海上保安庁巡視船への体当たり事件は記憶に新しい。
南シナ海の事態の推移を注視するとともに、尖閣を守るために南西諸島の防衛体制強化や、平時と有事の間の「グレーゾーン」に対処できるよう法整備を急ぐ必要がある。
(5月11日付社説)