習近平政権の反腐敗闘争
成否は周永康氏の逮捕
中国の社会不安と全人代
中国の第12期全国人民代表大会(全人代)第2回総会が北京で開催された。全人代では習近平・李克強政権(習政権)の1年が総括され、国防費12・2%増額や海空領域防衛の強化、さらには対日批判の展開などが注目された。同時に人民の不満解消に向け習政権が重視してきた反腐敗闘争にどう道筋を付けるかも関心事であり、全人代については機会を改めて分析するとして、本稿では反腐敗闘争に注目してみたい。
中国の現状については社会の安定を揺るがす事件が昨今、頻発している。昨年末来、ウイグル族の関わる不穏事件が続発し、雲南省の昆明駅では無差別殺傷事件などが発生した。さらに、北京など都市部ではPM2・5に象徴される大気汚染や環境破壊が進み、国民の間には不満が高まっている。その根底には社会的格差が沿海地方と内陸地域、都市と農村、さらに特権的な国有企業など業種、加えて医療福祉など人権問題にまで、重層的に拡大している。特に不満の頂点には、党幹部や官僚の汚職腐敗があり、不正蓄財による貧富格差の問題がある。
この1年を振り返って習政権は、格差是正に向けて汚職腐敗対策を積極的に進めてきた。その成果は、直轄市・重慶市のトップ薄煕来政治局員の終身刑判決をはじめ、部長級(閣僚、省など地方トップ職)の汚職事件で19人の摘発など綱紀粛正が進められている。従来の小物をやり玉に挙げて幕を引く汚職退治のパフォーマンスから、今回は「蝿(小役人)も、虎(幹部)も」をキャッチフレーズに大物幹部の腐敗退治にも着手した。
現在も「老虎」と言われる党中央委員クラスの大幹部の摘発が続いており、具体的には昨年9月に蒋潔敏・国務院国有資産監督管理委員会主任、12月には李東生・公安部副部長(いずれも大臣級)など6名が中央規律検査委員会(中央規検委)の取り調べ(双規)を受けている。また中央や地方の同レベルの幹部、さらには石油関連の国有大企業のトップなど16名が双規を受け、処分されている(『東亜』2月号)。
党の汚職摘発と綱紀粛正の推進は中央規検委のトップ・書記に王岐山政治局常務委員(常委)が就いて強力に進めている。その第3回総会(1月14日)では清廉な政治と反腐敗闘争が強調された。そこで習主席が重要講話をし、「共産党の長期執政のためには反腐敗闘争の断行とそれによる人民大衆の信任を得る必要性」を熱く説き、「腐敗対策には……骨を削り、腕を切っても、体に毒が回るのを防がなければならない」と檄(げき)を飛ばした(新華社電1・14)。そこには革命成功から六十数年を経て、共産党独裁システムに体制疲労が生じ、執政を妨げる巨悪の累積への危機感が滲み出ている。
その意を受けて地方でも地方規検委及び監察機関が腐敗退治を進め、摘発された幹部は全国で18万2038人に上り、前年比13・3%増であった。そして15万53人が共産党の規律処分を受け、4万8900人が行政規律処分を受けたと公表されている(中国通信1・10)。具体的には本年1月に限っても老虎には郭有明湖北省副省長や李建業元南京市長など地方幹部17人の解任や処罰があった(『月刊中国情勢』2月号)。
今後の注目点は、大老虎とも言うべき周永康元政治局常委にも司直の手が伸びるか、である。政治局常委の地位は共産党独裁の頂点に立つ集団指導体制の最高幹部でこれまで聖域とされてきた。その周永康摘発は習政権の反腐敗闘争の本気度が試されている。周永康は巨大な国有企業石油利権を基盤とし、さらに江沢民勢力につながる重鎮で、側近や秘書の逮捕が続く中で大老虎を摘発できるか、が反腐敗闘争の成否を決めよう。
しかし反腐敗闘争は、中国社会に深く根を張る既得権益層への切り込みそのものであり、困難を極めている。極論すれば共産党そのものが最大の既得権益集団となっており、自ら身にメスを入れる困難さを法治で克服しようとしている。習主席は中央政法(司法・公安)業務会議にも出席して講話をし、社会の安定維持を基本任務として社会の公平・正義を核心とする厳格な法執行と公正な司法の堅持を強調した(中国通信1・8)。
同時に習主席は、この1年間に異常なまでに権力集中を図ってきた。昨秋の第3回中央委員会総会で決議された広範な改革深化の新政策を受けて党中央全面改革深化領導小組を新設して自ら組長に就いた。また国家安全委員会を新設し、国内外の安定を図る強権力組織の主席にも就いている(新華社電:1・24)。さらにはネット安全と情報化に対する党中央領導小組も創設し組長になっている。
中国の共産党独裁システムは、日常の最高決定権を政治局常委会に置き、集団指導で進めている。現在の7名の常委には、既得権益層に属する者が多く「自らの骨を削ることができるか」が問われており、反腐敗闘争の貫徹を図るもがきの中で習主席は権力集中を急いでいるのであろう。
今日、中国は海洋問題で日本や東南アジア諸国と海空域で軋轢(あつれき)をかかえ、ウクライナ問題など難しい舵取りに直面している。同時に国内では汚職腐敗への不満が暴発の危険水位に近づく中で反腐敗闘争の成否は死活的な課題となっている。全人代後の汚職退治は国家安定の帰趨(きすう)に関わっており、その推移から目を離せない状況が続いている。
(かやはら・いくお)






