中国全人代閉幕 内政の課題山積、環境問題も
李克強首相 周永康問題などに触れず
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は13日、経済・社会分野での構造改革や反腐敗、環境対策、反テロへの強い決意を掲げた政府活動報告を圧倒的な賛成多数で可決し、閉幕した。李克強首相は定例記者会見で周永康前政治局常務委員をめぐる汚職疑惑問題や領土・歴史問題には踏み込まず、山積する国内問題への取り組み実績を強調し、民政重視と大国路線を二大路線にして、国民の不満をいかにそぐかに腐心している。(香港・深川耕治)
民政と大国外交の舵取り至難
北京で5日に開幕した第12期全人代第2回会議は、1日夜、雲南省昆明での無差別テロがウイグル独立派による組織的犯行として緊張が高まる異様な中でスタートした。
全人代では、今年の経済成長率目標を7・5%前後とし、国防予算を前年実績比12・2%増(4年連続2桁増)となる軍備増強の国家予算案を承認。政府活動報告には投票総数の99%を超える2887票の賛成票が投じられ、温家宝前首相時代とほぼ同じ支持率を得ている。
李克強首相は13日、全人代閉幕後の記者会見で「わが国は法治国家であり、誰であろうと地位の高さを問わず、法の前では平等であり、党の規律や国家の法律に抵触すれば、厳粛に調査・処罰しなければならない」と述べ、汚職問題に対して不正があれば必ず処罰する強い決意を表明した。
習近平政権は、前最高指導部メンバーの周永康前共産党政治局常務委員や親族、側近らに汚職容疑での徹底捜査を継続しており、周氏への処分が近く公表されるかどうかに内外の注目が集まっており、同問題を含み、政権の厳正な態度を示したものだ。
2012年の全人代閉幕後の温家宝首相(当時)が行った会見では「重慶市党委員会と市政府は猛省しなければならない」と発言し、その約1カ月後に薄煕来重慶市党委書記(当時)が解任され失脚した経緯があり、李首相も同様の流れの中で汚職追及を念頭に置いたものとみられている。
周永康氏は昨年10月の母校・石油大学訪問以来、活動消息が途絶えており、昨年末から党規律検査委員会での周氏の拘束・取り調べ情報が飛び交っており、外堀は完全に埋められ、処分発表は秒読み段階との見方も強まっている。
国政助言機関・中国人民政治協商会議(政協)の呂新華報道官も2日の記者会見で周氏の調査を「知っての通りだ」と否定せず、以後、中国メディアでも周氏の汚職疑惑報道が解禁され、動向が注目されている。
ただ、薄煕来氏(元政治局員)の失脚と比較すれば、周氏は前最高指導部の政治局常務委員を引退した立場であり、党内での歴任ポストやキャリアが違うため、比較すること自体に無理があるとの見方もある。汚職を理由に党最高指導部メンバー経験者が摘発された前例はないため、習指導部で政治的慣例を破る前代未聞の事態となれば、党内長老の不満が増大し、派閥抗争の中で習近平総書記の党内権力基盤が脅かされかねないため、最終決断には、なお時間を要するとみられている。
李首相は「国家主権と領土保全を守り抜く意志は揺るぎがない」と述べ、5日の政府活動報告で「第2次世界大戦の勝利成果と戦後の国際秩序を護持し続け、歴史の潮流を逆行させることは断じて許さない」と発言したことに比べると、暗に日本を名指し非難するような強いトーンは避け、17年の香港の普通選挙問題についても明解な言及は避け、敏感な政治問題について触れるよりも内政実績や取り組みを内外に印象付ける形を取っている。特に国内向けには増大する社会矛盾への不満をそぐことに最も神経を使っている。
深刻化する大気汚染問題では「朝、起床すると、多くの人々がスマートフォンでPM2・5(微小粒子状物質)の数値をチェックしており、もはや重大な民生問題になっている。われわれ自身の野放しの生産・生活方式に宣戦する」とし、大気汚染対策の重要性を強調している点は民生重視の一端だ。
全人代閉幕後の首相記者会見は1993年以来、朱鎔基氏や温家宝氏ら歴代首相の個性がにじみ出るものになったが、今回は異質だったようだ。14日付の香港各紙は、約2時間にわたった李克強首相の記者会見では質問した15人の内外メディア記者について挙手指名制ではなく「事前に質問記者は選定されて決まっていた」(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト)としており、「事前に周永康氏をめぐる汚職問題、香港の普通選挙問題、領土をめぐる中日問題、昆明テロ事件など政治的に敏感な問題については質問しないよう秋風を送っていた」(明報、蘋果日報)との言論封殺の実情を報じている。