チベット白書 中国の同化政策を許すな
中国政府がチベットの現状に関する白書を発表し、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世について「長い間、チベット独立の陰謀を捨てず、チベットの安定と団結に危害を及ぼしてきた」と非難した。
ダライ・ラマ14世を非難
白書は、中国によるチベットの「平和解放」協定の締結から70年となるのに合わせて発表。ダライ・ラマと支持者らのことを「祖国分裂をたくらんでいる」と強く非難した。
しかし、この批判はあまりにも身勝手だ。チベットは中国に併合されるまでは独立国家だった。1959年3月のチベット動乱で、ダライ・ラマはインドへの亡命を余儀なくされた。こうした経緯を無視し、中国がダライ・ラマを批判することは断じて容認できない。
白書は、チベットの人々の生活が中国共産党の指導によって大きく改善したとして統治の正当性を主張している。だが、中国はチベット仏教徒を抑圧し、同化政策を推進している。少数民族の独自の文化を抹殺しようとすることは許されない。
チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相は米紙ワシントン・タイムズとのインタビューで、中国が数十年にわたって、チベット人を漢民族の文化に同化させ、チベットの宗教、文化のあらゆる痕跡を消し去ろうとしていると述べた。
センゲ氏によると、チベット自治区の地方の若者50万人が中国によって家族から引き離され、都市部に設けた施設で軍のような訓練を強要されている。米国務省の人権報告も、チベット人が正当な手続きを経ずに逮捕される事例が頻発し、拷問など残忍で非人道的な扱いを受けていると指摘している。
また、中国はチベット仏教を統制しようとしている。チベット仏教の僧侶は現在、共産党の許可がなければ宗教行為を実践できないという。センゲ氏が「無神論の組織が、宗教権威に証明書を発行するということがあり得るだろうか」と非難するのは当然である。
チベット仏教をめぐっては、ダライ・ラマが第2の高位者「パンチェン・ラマ11世」に認定した男性が行方不明となってから今月で26年が経過した。中国は男性の行方について説明せず、別の人物をパンチェン・ラマ11世に認定している。これもチベット仏教に対する冒涜(ぼうとく)にほかならない。
日米をはじめとする民主主義国家は連携を一層強化し、中国への圧力を強めるべきだ。米国では昨年12月、チベット自治区での人権や信教の自由を擁護する「チベット人権法」が成立した。中国がダライ・ラマの後継者選定に介入した場合、米国が当局に制裁を科すことを許可するものだ。
日本は厳しい姿勢で臨め
日本では、超党派の有志議員でつくる「日本チベット国会議員連盟」(会長・下村博文自民党政調会長)が先月、センゲ氏とオンライン会議を行い、チベット自治区などの人権侵害行為を非難する国会決議を早期採択する方針を確認した。
中国の少数民族や人権の問題に対しては厳しい姿勢で臨む必要がある。